ここ数年、流通系や交通系の電子マネーが急速に普及したことで、現金を使わない「キャッシュレス化」が急速に進んだ日本。 さらに、去る10月15日、安倍首相が2019年10月から消費税を現行8%から10%に引き上げる方針を表明したことで、キャッシュレスに関する議論が一段とかまびすしいものになった。
政府や各業界が普及に期待を寄せる「QRコード決済」
政府や各業界が今後の普及に期待を寄せているのが、スマートフォンで読み取るQRコードを使った決済サービスだ。その最大のメリットは、店舗側のコスト負担の少なさにある。QRコード決済は、画面上または印刷した二次元QRコードがあれば、ほとんどの機種のスマートフォンで決済できるので、クレジットカードや他の電子マネー決済のように専用の読み取り機を設置する必要がない。サービス事業者に支払う手数料も低く抑えられており(無料~3%程度)、個人経営の飲食店や小売店などでも気軽に導入できる。
そうしたメリットを踏まえ、政府はQRコードの決済基盤を提供する事業者へ補助金を供与し、中小の小売店には決済額に応じて時限的な税制優遇の適用を検討。これを受けて、すでに楽天やNTTドコモ、LINE、Amazonなどの事業者がQRコード決済サービスを開始しており、ソフトバンク・Yahooの合弁会社やKDDIも2018年度内の参入を予定しているという。
社会的格差の拡大や若年層の金銭感覚醸成が課題に
国が税金を投じて積極的に推進し、社会的にも大きな期待が寄せられているキャッシュレス化だが、じつは喜ばしいことばかりではないようだ。世の中でメリットばかりが強調される一方で、その合理性に隠れた課題点や過度な拡大を懸念する声もある。
とくに懸念されているのが、社会的格差の拡大である。実際にキャッシュレスが浸透している諸外国では、クレジットカードを所有できない貧困層や、デジタルデバイスに不慣れな高齢者がキャッシュレスに対応できず、消費社会の中で置き去りにされてしまう問題が浮上している。さらに、キャッシュレス決済の利用者をめぐっても、各事業者が個人の信用情報データを活用して、支払い能力の高い人に向けたプレミアムサービス(ホテル予約時の違約金不要、金融商品の金利優遇など)を始めており、サービスを受けられる富裕層と受けられない一般層との格差が広がりつつあるという。
大人の社会だけでなく、若年世代への影響も不安視されている。ここ近年、中国やデンマークなどでは子どもの小遣いやお年玉も電子マネー化し、日常生活の中で現金をほとんど目にしない世代が登場。現金の扱いや価値がわからない子どもも増えていることから、健全な金銭感覚の醸成が課題となっている。
たしかに、私たちの社会生活や経済活動において、キャッシュレス化がもたらすメリットは非常に大きい。しかし、現金が不要とされる世の中が、万人にとって本当に理想的な社会なのか?……と考えると、決して「イエス」とばかりは言えないだろう。筆者自身、買い物に現金をほとんど使わないクレジットカード派だが、現金という唯一無二の価値やリアルな存在感は、決して忘れ去られてはいけないと思っている。
金融イノベーションという一大潮流に乗って、ますます加速していくキャッシュレス社会の光と影── 賛否両論ある中で、皆さんはどう考えるだろうか。
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