全国各地の小規模な醸造メーカーで、原料や製法にこだわってつくられる「クラフトビール」。かつては「地ビール」と呼ばれブームとなりましたが、下火になった後も品質を追求する作り手によって個性が磨かれ、ジワジワとファン層を広げてきました。 そしていま、その「ジャパンメイドの品質と個性」が世界の品評会でも高く評価され、国産クラフトビールの輸出量はここ数年で一気に増加。国内のクラフトビールメーカーも本格的な海外展開を見据え、欧米やアジア市場での販路拡大に乗り出しています。
地ビールブーム後の停滞期を経て、プレミアムなジャンルへ進化
日本では1994年の酒税法改正で、ビール製造免許取得に必要な年間製造量が2000キロリットルから 60キロリットルに引き下げられ、地方を中心に小規模なビールメーカーが急増。ピーク時の2000年には約300社が参入し、いわゆる「地ビールブーム」が巻き起こりました。
ただ、醸造技術が未熟なメーカーも多く、品質のばらつきと割高な価格で人気が下火となり、ブームはまたたく間に沈静化。撤退するメーカーが相次ぎ、数年後には約200社にまで減少しました。
しかし、ブーム以降「高くてまずい」というマイナスイメージが広がった地ビールは、品質を追求するメーカーの地道な努力によって少しずつ息を吹き返します。やがて、原料や製法にこだわった小規模生産のビールは、職人の手技から生まれる「クラフト/Craft(工芸品)」の名で呼ばれるようになり、ビール市場のプレミアムなジャンルとして定着しました。
国税庁の調べによると、国内のクラフトビール(地ビール等)生産量は、この10年で約2倍(約1万4000キロリットル ⇒ 約2万8000キロリットル)に拡大。2017年にはメーカー数も約280社にまで増加し、全国各地のビールイベント・ネットショップでの自社販売や、スーパー・コンビニへの拡販のほか、都市部でもビアパブなどへの出荷を増やしています。
多種多様なビアスタイルが、消費者の嗜好の多様化にマッチ
クラフトビールの最大の特徴は、原料や醸造法によるビアスタイル(ビールの種類)の多彩さにあります。国内大手メーカーが生産するビールは、キレのある爽快なのどごしの「ラガー(ピルスナー)」が主流ですが、クラフトビールのスタイルはなんと50種類以上(ピルスナー、ペールエール、アイピーエー、ヴァイツェン、スタウト……など)。細かく分類すると約100種類になるともいわれ、同じスタイルでも原料の産地・配分や醸造の調整などによって、それぞれの個性が際立つ多種多様な味わいが生まれます。
近年、若者を中心にビール離れが進む一方で、クラフトビールの人気が高まっているのは、作り手によって異なる味の多様性と、消費者の嗜好の多様化がマッチしたためでしょう。料理や好みに合わせてビールの選択肢が増えれば、飲んでみようと思う人も増えるに違いありません。
そうしたニーズに大手メーカー各社も注目し、自社の新ブランドを立ち上げてクラフト市場に次々と参入。現在のところ、国内のビール市場に占めるクラフトの割合は1%程度(2017年の出荷ベース)ですが、業界関係者の間では2021年には3%、中長期的には10%まで伸びると期待されています。
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