<PEST分析のT> メタボ検診のデータが、無駄になったと報道されていた。メタボ=ウエスト85センチが正しかったのかどうかを判断する上では、極めて残念な一件である。ただ、医療がビッグデータ活用により変わろうとしていることは明らかなトレンドである。ビッグデータ活用により医療は、どう変わるのだろうか。
鶴の一声で決まった「85センチ以上がメタボ」
検診の結果、ウエストのサイズが85センチ以上なら「メタボ」と判定される。メタボ検診によって悔しい思いをされた方も、多くおられるのではないだろうか。
では、85センチという基準は、どのようにして決まったのだろうか。もちろん、何の根拠もないわけではない。とはいえ、何センチを超えるとメタボとするのか、その基準についてはいくつかの案があった。84センチかもしれないし、86センチで良かったのかもしれない。
最終的には「85センチでいけ」と、関係者の中で最も影響力の強い先生発言し、それで決まったのだという。ある関係者から聞いた話だが、医学の世界ではあり得る話だとも思う。今の医学は「EBM(Evidence Based Medicine)」である。とはいえ、EBMが言われだしたのは、せいぜいこの10年ぐらいではないか。つまり、以前はEBMではなかったのだ。
そうならざるを得なかっただろうとも思う。なぜなら、ウエスト何センチ以上になると、明らかに生活習慣病を発症しやすくなることを示すデータなど存在しなかったからだ。
なぜ高血圧の基準値は変わったのか
2014年4月、日本人間ドック協会は、高血圧の基準値を改定した。新基準では147/97mmHg以上が高血圧と診断される。以前の基準値は、140/90mmHgである。つまり血圧が145/95ぐらいの人は、以前の基準値なら高血圧と診断されたが、新しい基準に従うなら高血圧とはならない。
この日本人間ドック協会の新基準値に対しては、日本高血圧学会が即座に「世界も日本も、高血圧基準は140/90mmHg」とアピールするパンフレットを発行し反論を唱えている。
と聞けば「?」と思われる方もいるだろう。そもそも、高血圧の基準値とはなんだろうか。日本医師会は、「(人間ドック協会が発表した)基準範囲は健常人から得た検査値を集めて、その分布の中央95%を含む数値範囲を統計学的に算出したものであり、疾病の診断、将来の疾病発症の予測、治療の目標などの目的に使用することは難しい」との見解を出している(http://www.med.or.jp/shirokuma/no1799.html)」。つまり医師会も高血圧の基準値を変えることには反対している。
そもそも高血圧とは、どう考えるべきか
同じ血圧でも、持病の有無により、血圧コントロールの必要性が変わることがある。例えば、糖尿病を患っている人が高血圧を合併すると、脳卒中などのリスクが高まる。だから糖尿病患者は、血圧を130/80mmHgに押さえることが望ましいとされる。
では、同じ糖尿病患者で30歳の人と80歳の人がいる場合、血圧の目標値はどちらも同じで良いのだろうか。普通に考えれば、良いはずがないというのが答えとなるだろう。
理想をいえば、性別、年齢別、既往歴別、生活習慣別、さらにはゲノム分析などのデータをベースに、高血圧かどうかは個別に判断されるべきであり、今後は、その方向でデータ活用がなされるはずだ。
もっとも医療(医学ではない)の世界では、非常に複雑な利害関係が絡み合っているので、話がそう簡単に進むとは限らない。血圧の話にしても、仮に正常値が140/90mmHgの場合と、147/97mmHgの場合では、異常と診断される人の数がどう変わるかを考えればわかる話だ。
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