「2」の器で「2」をすくい取っている状態が幸福か、「10」の器で「4」をすくい取っている状態が幸福か……あなたの幸福観をめぐる思索実験です。
もう1つ卑近な例をあげましょう。S3さんとL3さんは、同期入社の10年目社員です。S3さんは能力的には並みで担当業務をこつこつこなします。今期も何とか与えられた個人目標をクリアできたことに「やり切った感」を得ています。他方、L3さんは能力的に秀でており、新人のころから頭角を現して、いまではマネジャー職に就いています。これまでいくつものプロジェクトに加わり、仕事の面白みや醍醐味、同時に苦労や修羅場も知っています。今期任されたプロジェクトは難題で、チームをまとめきれなかったこともあり、成果も中途半端にしか出ませんでした。疲労感残るなか、「これも成長のためには大事な経験」と自分に言い聞かせています。さて、「仕事の幸福」からすると、どちらがより幸せなのでしょう?
……以上、3つの例から、SさんとLさんの状況の違いのニュアンスを読み取れたでしょうか。では、冒頭の問いについて考えてみてください。また、以下に思索を深める材料を並べておきました。
この問いに対する答えは、ここでは特に書きません。おそらく百人考えれば、百様の答えが出てくるでしょう。あるいは、自分のなかでも答えが1つに収束しない場合も起こります。それはそれでいいのです。その思索を巡らせるプロセスこそが「哲学する」(=フィロソフィー=智を愛する)ことにほかなりません。哲学の目的は、必ずしも明解に答えを出すということにはありません。考える行為をする、考える作業を愛することが哲学の主目的です。
【思索や議論を深める材料】
□「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」 ───『史記』
(えんじゃく いずくんぞ こうこく の こころざし を しらん や)
ツバメやスズメのような小さな鳥には、オオトリやクグイのような大きな鳥の志すところは理解できない、の意味。
□「満足した豚よりも不満足な人間、満足した愚か者よりも不満足なソクラテスであるべきだ」。 ───ジョン・スチュアート・ミル(英・哲学者)
□「知足者富」(足るを知る者は富めり) ───老子
□鋭い者にとって、この世界は憂いに満ちており、
鈍い者にとって、身の周りは唄・酒・恋に満ちている。 ───(出典不明)
□サム・クックの歌った『ワンダフル・ワールド』 (1960年のヒット曲)を口ずさんでみましょう。
Don’t know much about history
Don’t know much biology
Don’t know much about a science book
Don’t know much about the French I took
But I do know that I love you
And I know that if you love me too
What a wonderful world this would be
Don’t know much about geography
Don’t know much trigonometry
Don’t know much about algebra
Don’t know what s slide rule is for
But I know that one and one is two
And if this one could be with you
What a wonderful world this would be
……(続き略)
次のページ□『新・平家物語』(吉川英治);最終章「吉野雛」
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2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。