「2」の器で「2」をすくい取っている状態が幸福か、「10」の器で「4」をすくい取っている状態が幸福か……あなたの幸福観をめぐる思索実験です。
〈夏の哲分補給問題〉
人はだれしも「幸福を感じ取る器」を内面にもっています。
その器は、高さ、深さ、広さ、鋭さから成っていて、人それぞれに大きさがあります。
さて、Sさんの「幸福を感じ取る器」の大きさは「2」です。
いま、「2」の量の幸福を感じています。
他方、Lさんの「幸福を感じ取る器」の大きさは「10」あり、
いま、「4」の量の幸福を感じています。
……このとき、2人のうちどちらが、より幸せなのでしょう?
あるいは、あなたはどちらの幸せ充足状態を望みますか?
つまり、器は小さくとも幸福充足度10割のSさんを望むか、
Lさんのように、幸福をより高く、深く、広く、鋭く感じる大きな器をもつものの、
4割しか満たされない状態を望むか……。
* * *
上のSさんとLさんの違いを、少し卑近な例で紹介しましょう。
たとえばS1さんはごく普通の大学1年生です。食べることにはどちらかというと無頓着で満腹になればそれでいいという育ち盛りの学生です。いま部活が終わり、街の定食屋で牛丼大盛りを平らげました。彼はその料理の味にも量にも十分に満足しています。他方、L1さんは40代のビジネスパーソンです。国内外の出張も頻繁にこなし、ところどころの有名なレストランで優れた料理をたくさん食べてきました。料理に関しては舌がすごく肥えていて、食の楽しみ方もさまざまに知っています。L1さんはある晩、評判のフレンチレストランに入り、コースディナーを食べました。決して悪くない料理ですが、彼にとっては「イマイチ」のレベルだったようです。さてこのとき、「食べることの幸福」からすると、S1さんとL1さんのどちらがより幸せなのでしょう?
次の卑近な例です。S2さんとL2さんが一緒に山歩きに出かけました。山のふもとから川や湖を見て回り、5合目まで登ってきてお昼ご飯にしました。山歩き初心者のS2さんは「もうこれで十分山を楽しめた」ということで、午後は早々に山を下りることにしました。他方、山歩きベテランのL2さんは、「山の魅力はこんなものではない。もっと上に行けばもっと素晴らしい眺めがあるし、登頂すれば爽快な達成感が得られる」ことを知っているので、午後もさらに上を目指しました。予想通り6合目の景色は5合目よりも雄大でした。ところがその後天候が急速に悪化し、7合目くらいで雨に降られ、下山を余儀なくされました。L2さんは登頂できず残念な様子です。さて、「山歩きの幸福」からすると、2人のうちどちらがより幸せなのでしょう?
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2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。