「正直な所、少し悩んだりしましたね」。2012年の秋を振り返って、コカ・コーラ ゼロのブランド戦略担当者は苦笑いを見せた。 日本コカ・コーラのコカ・コーラ ゼロは2013年6月4日に発売6周年を迎え、累計販売60億本を超えた。そのビッグブランドもキリンビバレッジのメッツコーラやサントリーフーズのペプシスペシャルという「特保コーラ」の発売によって話題を奪われることとなったのが昨秋のことだ。
■キャンペーンメッセージを研ぎ澄ます
特保にはないコカ・コーラ ゼロの魅力を伝えるにはどのような訴求の切り口を持つべきなのか。それには、「炭酸飲料本来の飲み方を思い出させることが必要だと考えた」という。それは、特保のように食事のシーンに特化するのではなく、「リーダーブランドとしてあらゆるシーンで飲まれ、共感されることを念頭に置いた」のだという。
コカ・コーラ ゼロはこの4年間、「ワイルドヘルス」というメッセージングを行ってきたが、今年2月より「ゼロリミット 思い切り味わおう」というメッセージに変更し、市場への新たなる登場感を演出してきた。それを、6月3日より再調整し、より切り口を鮮明にしたメッセージに切り替えた。「思い切り味わおう ゼロリミット」である。メインメッセージとサブのメッセージを入れ替えただけのように見えるが、その狙いは大きい。特保コーラとのベネフィットの違いを強調させるための結論であり、軸足の置き場所は「味=おいしさ」だ。それを明確に伝えるためなのである。
■「また飲みたくなる」ために
「思い切り味わおう ゼロリミット」というメッセージのキモは「また飲みたくなるという、シズル感」だという。
セレブレティーとしては引き続きEXILEを起用。前CFではメンバーが氷の中から商品を取り合うような表現で登場感を演出したのに対し、今回はより具体的な飲用シーンのカットを多用し、容器が空になるまでゴクゴク飲み切る姿までを表現している。
コカ・コーラシステム(コカ・コーラグループ)には飲料業界最大の約98万台に登る自動販売機チャネルがある。そこでは、コンビニエンスストアやスーパーなどの店頭での販売のように「ついで買い」ではなく、飲みたいと思った時に購入する「目的買い」を最大化させることも課題となる。いずれのチャネルでも、「飲みたい」と思わせるために、「ゴクゴク飲む」という表現でメッセージをつないでいるのである。
リーダー企業やブランドは、とかくの「全方位戦略」を展開するのが正解だと考えられがちである。しかし、戦略を決めるということは、「やらないことを決める」ことでもある。このコカ・コーラ ゼロの事例は、リーダーといえども「選択」を適切に行っているという意味において学ぶべきところが大きいといえるだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。