ビール類総市場不振の中で成長している銘柄といえば、まず思い浮かぶのが「ザ・プレミアム・モルツ」だろう。2012年のビール類総市場の伸長率は対前年比99%と前年割れの中、「ザ・プレミアム・モルツ」は110%と二桁増の勢いだ。その好調のワケをサントリー酒類株式会社 ビール事業部プレミアム戦略部 課長の安達考俊氏に聞いてきた。
■まだまだ行けるはず!
「飲み飽きない。もっと飲みたくなる。」をさらに深めることは、実際には簡単ではない。何より、そこには大きな問題とリスクが存在した。
プレモルの栄光、3年連続モンドセレクション最高金賞受賞。しかし、味に手を加えるということは、その金字塔を掲げられなくなるということを意味している。また、プレモルは多くのファンから支えられている。新しい味がそのファン層に受け入れられなければ、離反を招きかねない。
ビール類だけでなく、多くの飲料はリスクを恐れるため、ブランドの本体の商品には手を加えず、ブランドエクステンション、即ち、派生商品の発売を行うのが常だ。しかし、プレモルはあえて、リスクを取った。
「もっと行けるはず。まだプロダクトライフサイクルは成熟期ではなく成長期の入り口であり、余地はあるはずとの想いがあった」と、安達氏は振り返る「もっと多くの人に、手に取って飲んでもらいたい」という社内の想い。そして何より、「サントリーのビール事業のフラッグシップブランドであり元気の素であるプレモルをやらなきゃという全社一丸のコンセンサスがあった」と言う。
■キーメッセージに込められた想いと成功のヒミツ
2013年の製品メッセージとしては、「コクのプレミアム。」。それは、プレモルが目指す世界最高峰のおいしさ。「ヴァイタートリンケン」、即ち、「しっかりとしたコク・うまみ」を言い表す製品の本質を示しているのである。
実は、実際の味の確定までには何度も社内で社長に至るまでのチェックが行われ、何度も試行錯誤が繰り返されたのだという。それは、「世界最高峰のうまさ」を実現するという思いの深さを表しているといえるだろう。発売ギリギリまで悩みに悩んだが、最後はサントリーらしく「やってみなはれ」でやっと決まったという。
成功体験。それは時に危険な罠になる。成功体験に縛られて先に進めなくなり、やがて没落していくことを「成功の復讐」ともいう。プレモルの好調のヒミツは、過去の栄光を捨て、顧客離反のリスクを取ってまで、新たな成長を目指した点にあるといえる。しかし、そこには単なる売り手の理論だけでなく、顧客の「Value for money」に応えるという視点も忘れられていない点も見逃せない。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。