ついに「野菜」だ。キリンビバレッジのニュースリリースによれば、<10種類の緑の野菜をブレンド><100mlあたり1500mgの食物繊維を摂取することができる>という。どんな味がするんだ?と思っていると、<ほんのりとした野菜の風味で、すっきりとした味わい>だという。味もナゾだが、その戦略意図もナゾだ。少し考察してみよう。
キリンの生茶は2000年に伊藤園の「おーいお茶」キラーとして市場に参入した。両者は熾烈な戦いを繰り広げ、生茶がシェアをかなり奪取したものの、辛くもおーいお茶が首位を守り通した。
両社の均衡が破れたのは2004年のこと。サントリーが「伊右衛門」で緑茶飲料カテゴリーに殴り込みをかけてきたのだ。以来、カテゴリーで3位に甘んじることとなり、昨今では日本コカ・コーラの「綾鷹」の猛追を受けるという厳しい状況にさらされている。
そんな中、生茶に大きな転機が訪れたのが発売10周年を迎えた2010年のこと。生茶のリニューアル自体は珍しくないが、抹茶を用いたり、茶葉を変えたりするものの、ポリシーとして緑茶以外の派生商品には手を出していなかったことだ。それをついに破って、ブレンド茶カテゴリーに「生茶ブランド」で参入をしたのである。ブレンド茶カテゴリーの不動の王者はカテゴリーシェア60%を握る日本コカ・コーラの「爽健美茶」だ。それに対する無謀なチャレンジかとも思われたが、今回の「生茶 緑の野菜のブレンド茶plus」の発売を考えると違った戦略意図も見えてくる。
一つは「棚取り」だ。派生商品を出すことによって、コンビニなど販売チャネルの棚が確保できる。ブレンド茶カテゴリーはファンも多い。トップの爽健美茶の棚を奪取することなどはできないが、チャネル、コンビニの店長の気持ちになって考えればそれなりの売上を期待して少なくとも1フェイスは棚を確保したくなるだろう。シェアの低い生茶にとって棚のフェイスを増やすことは容易ではない。それを可能にするのが派生商品なのだ。
もう1つの効果もある。サントリーが年に2回発売する「変わり種ペプシ」。2007年夏、キュウリ味の「ペプシ・キューカンバー」で衝撃のデビューをし、その後も「ペプシブルーハワイ」「ペプシしそ」「ペプシあずき」など様々なバリエーションを投入してきている。その意図はドコにあるのか?日本においてペプシブランドを展開するサントリー食品の担当課長の貴重なインタビュー記事が日経ネットBizPlusに掲載されていた。(現在は掲出なし)。タイトルは 「サントリー、ペプシPRへ話題作り シソ・アズキ…相次ぎ『奇策』」。記事中で担当課長はインタビューに応え、<「2本目を買ってもらうことは期待していない」「限定品は味わいの驚きでブランドの新しさや楽しさを発信する手段。商品自体がペプシのPRになっている」>と言い切っている。「生茶 緑の野菜のブレンド茶plus」はこのパターンの意味合いが強うだろう。
ペプシも生茶もカテゴリーのチャレンジャーだ。トップのリーダーブランドのシェアを逆転できるか否かも重要だが、それが難しいなら徹底した差別化戦略によってブランドの独自性をアピールすることが必須なのだ。「スカッと爽やかコカ・コーラ」という昔のコピーがいまだに多くの消費者のアタマに残っている。それは貴重なブランド資産だ。故に、爽やかでない「変わり種」を出してくることはできない。生茶も同じだ。おーいお茶は頑なに王道を歩んでいる。それに対して伊右衛門はより一層研ぎ澄ました本格派というイメージを強化して成功している。緑茶でない派生商品や、ましてや野菜ブレンドは出さない。
生茶がペプシのように「2本目を買ってもらうことは期待していない」とまで割り切っているかは不明であるが、ある意味、吹っ切れた結果が今回の商品なのではないだろうか。
発売は3月6日(火)だ。是非、一度試してその意図を舌でも確かめてみて欲しい。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。