私たちは物事の抽象度を上げて大本の「一(いち)」をモデルでとらえることができれば、それを10個にも100種類にも具体的に展開応用することができる。モデル化によって「一」をとらえなければ、いつまでたっても末梢の10個を丸暗記することに努力し、100種類に振り回されることになる。
九鬼の場合、こうした風流をめぐる美的価値を1つ1つ言葉上で定義するのではなく、直六面体のモデル上に相対的な位置関係で示すというアイデア自体が、優れて独創的であると思います。概念モデルを図に落とし込む作業は、ある意味、アート作品をこしらえる作業にも通じるところがあります。モデル図は、もちろん理解しやすいということが必須要件ですが、美しいことも大事な要件です。
* * * * *
ところで、私たちはなぜ物事をモデル化してとらえることが大事なのでしょうか。
───それは、物事を個別具体的にとらえるレベルに留まっていると、
永遠に個別具体的に処置することに追われるからです。
それを簡単なモデルを使って説明しましょう。次に並べたのは英語の問題です。それぞれのカッコ内には前置詞が入りますが、それは何でしょう。1つ1つ答えてください。
・a fly ( ) the ceiling
(天井に止まったハエ)
・a crack ( ) the wall
(壁に入ったひび割れ)
・a village ( ) the border
(国境沿いの町)
・a ring ( ) one’s little finger
(小指にはめた指輪)
・a dog ( ) a leash
(紐につながれた犬)
……どうでしょう、各問に答えられましたか。正解は、すべて「on」です。
ところで、私たちは前置詞「on」を「~の上に」と習ってきました。習ってきたというか、暗記してきました。そうした暗記的なやり方で英語と接してきた人は、「天井にさかさまに止まった」とか「壁に入った」とか、「国境沿いの」などの言い表しに思考が発展しないので、それぞれの問題に戸惑ったことでしょう。そうして正解を見て、また1つ1つ、「on」の使い方を丸暗記していくことになる。
これに対し、いま私の手元にある一冊の英和辞典『Eゲイト英和辞典』(ベネッセコーポレーション)の帯には、こんなコピーが記載されています───「on=『上に』ではない」と。さっそく、この辞書で「on」を引いてみる。すると、そこに載っていたのは、下のような図でした。
「on」は本来、縦横・上下を問わず「何かに接触している」ことを示す前置詞だというのです。確かにこの図をイメージとして持っておくと、さまざまに「on」使いの展開がききます。
この辞典は、その単語の持つ中核的な意味や機能を「コア」と呼び、それをイラストに書き起こして紙面に多数掲載しています。10個の末梢の意味を覚えるより、1つの「コア・イメージ」を頭に定着させたほうがよいというのが、この辞書づくりのコンセプトなのです。
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2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。