人は歳とともに自身の抱く目的の質とレベルに応じた人間になる。現状の自分より常に大きな高い目的を持って、それを目指していれば永遠に成長は続く。そして目的から得られる“やりがい”というエネルギーが、人を永遠に若くする。
スティーブ・ジョブズは伝説のスピーチでこう訴えた─── 「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日やる予定のことを私は本当にやりたいだろうか?」。
仕事の幸福とは、ほんとうのところ、今日死ぬとしても、そのことをやりたい、やらずにはおられないと思える仕事を持っていることではないか。そして坂本龍馬が言ったとおり、「前を向いて逝く」ことができれば人生本望だ。死ぬ直前にどれだけの財産を蓄えていたか、どれだけの地位にあったかではない。あの世には、金品も地位も持っていけないのだ。
◆人は歳とともに目的に応じた人間になる
いま手元にあって読んでいるのが、『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(小澤征爾/村上春樹、新潮社)だ。この本でインタビュアー役を務める村上さんは、食道がんの治療と演奏活動を体力ぎりぎりのバランスで続ける小澤さんの姿を前書きで次のように書く。
───この人はそれをやらないわけにはいかないのだ。(中略)ナマの音楽を定期的に体内に注入してあげないことには、この人はそもそも生命を持続していけないのだ。自分の手で音楽を紡ぎ出し、それを生き生きと脈打たせること、それを人々の前に「ほら」と差し出すこと、そのような営みを通して──おそらくはそのような営みを通してのみ──この人は自分が生きているという本物の実感を得ているのだ。誰にそれを「やめろ」ということができるだろう?
身体の器官がいかに弱ってこようと、マエストロ小澤の内側から噴き出すことを止めない音楽欲求のマグマは、自己満足や自己顕示のものではないだろう。やはり「自分の音楽(指導)を待ち望んでくれる人たちがいる」「で、あるならば、一曲(一言)でも多くその耳に届けなければ」という、やむにやまれぬ愛他の心に違いない。「使命」という字のごとく、まさに「命を使って」音楽を続けているのだ。
コンサートで演奏される音楽は、その場で消えるものである。しかし、小澤さんの仕事は決して「消費されない」。その音の感動や、小澤さんの生き様は、深く聴衆の心に蓄積して、次にその人の生き様をつくる栄養となり、お手本となり、種となる。
目的──目的とは目標に意味が加わったもの──は、人をつくる。
私は今年50歳を迎えるが、これまで多くの人を観察してつくづく思うことは、 「人は歳とともに、自身の抱く目的の質とレベルに応じた人間になる」ということである。人は、自分の掲げる目的以上の中身にはなれない。言い方を変えれば、現状の自分より常に大きな、高い目的を持って、それを目指していれば、永遠に成長は続く。そして、目的から得られる“やりがい”というエネルギーが、人を永遠に若くする。
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2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。