日本経済新聞本紙と日経MJに2つの通信販売開始の記事が掲載された。ユニクロの「ヒートテック」は郵便局会社と組んで郵便通信販売を開始した。スペインのファストファッションブランドZARAは日本での多店舗展開に加えてインターネット販売の展開を始めた。両社の狙いは何だろうか。
日本経済新聞10月20日付夕刊と10月21日付本紙にユニクロの郵便通販の展開が掲載された。ユニクロ全店で郵送可能なパッケージ入りのヒートテック30種類を販売するという。また、全国20カ所の主要郵便局でも2種類の商品を販売するが、郵便局の窓口で衣料品を販売するのは初めてのだという。20日に開かれた両社の記者会見で、<「従来は自分や家族用の購入が多かったが、(新商品で)新しい需要が生まれると期待している」>とファーストリテイリングの担当役員がコメントしている。
ヒートテックの今期の販売目標は、ついに1億枚となった。幼児用は作られていないため、ほぼ日本人1人1枚に行き渡る、まさに国民服となる計算だ。しかし、ヒートテックはアンダーウエア、インナーウェアなので1人複数枚購入する。1億人を顧客化できるわけではなく、「買わない人」「買ったことのない人」も存在する。流通大手なども参入しているため、競合製品を購入する人もいる。その、自社の「白地(ホワイトスペース)」を埋めていくことが今回の戦略なのである。「MGM(Member Get Member)」という。わかりやすくいえば、既存顧客が新規顧客を連れてくるという、顧客の拡大再生産。通信販売の定番的アプローチである。
ZARAは2010年から欧州各国でネット通販を開始し、現在は欧州16カ国で展開。9月には米国でも開始したという。アジアは日本が最初だ。
ZARAの戦略は、日本においては通信販売の開始よりも多店舗展開を優先してきたといえるだろう。海外ファストファッションブランドといえば、米国のフォーエバー21やスエーデンのH&M、イギリスのトップショップなどが競合となるが、ZARAの店舗数は現在71店と群を抜いている。なぜ、通販に進出するのか。仮説だが、ZARAは世界各国で多店舗展開を行っているが日本は地代家賃などの新規出店コストが高く、これ以上効率的な出店余地が少なくなっているのではないだろうか。
スペイン本国での通販の特徴は返品・交換処理を店舗で対応する事情通が教えてくれた。日本の場合は記事では<未使用であれば30日の間は返品に応じる>としか記載がないが、恐らく通販のセンター宛に返送するのだろう。ここに差があるとすれば、どのような意味合いがあるのか。
スペインの例は店舗と通販を連動させることによって、「(店舗に来る)顧客購買頻度向上」を目的としていると考えられる。一方で、日本の場合は「 (店舗に来ない、来られない) 新規顧客獲得」が主な目的ではないだろうか。ZARAは多くのメディアにも取り上げられており、ブランドネームは多くの人に知れ渡っている。しかし、これ以上効率的に店舗展開が難しいとなると、そこに到達(リーチ)出来ない「白地(ホワイトスペース)」が生じる。
日本市場は今後人口縮小という傾向が顕著になってくる。それに対してファストファッション、低価格衣料の市場は競合環境の激化などで飽和感を増している。だとすれば、「規模の経済」によって低価格を実現することがビジネスシステムのとして欠かせないことから、「いかに白地を埋めるか」が大きなカギとなってくるのは間違いない。残された日本市場の白地をめぐって、各社が手を変え、品を換えの展開を投入してくることが今後も続くだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。