9月6日付・日本経済新聞の新製品情報に一つのデジタルカメラの発売が掲載された。何気ない記事だが実はそこにはデジカメの未来が隠されているのである。
よりキレイにというニーズを一眼、ミラーレス一眼がすくい取っている以上、コンパクトデジカメの活躍の場は日常の何気ないスナップやメモ代わりに限定されてくる。しかし、撮影したその先はどのように使われるかといえばSNSにアップしてシェアするか、手元に保存しておいて液晶画面で閲覧するという使われ方だろう。(写真をプリントするという行為は多くの人が忘れ去っている)。だとすれば、インターネットとの親和性や、閲覧する画面の大きさ、キレイさでコンパクトデジカメはスマホには敵わない。
デジタルカメラも導入期では、「デジタルで画像がきれいに残せること」という「中核価値」だけでも購入してもらえた。カシオが1995年にQV-10という25万画素の機種を市場に投入して以降、各社の画素数競争に明け暮れた。成長期においては、中核価値は当たり前な要素となり、中核をどのように実現するかという「実体価値」が競争課題となった。「高倍率なレンズのズーム比率」や「薄型コンパクトで携行性のよい本体」などだ。成熟期においては、さらに中核価値とは直接関係のない「付随機能」での競争となる。「シールプリント印刷機能内蔵」や「動画・静止画合成機能」などを搭載した機種が発売された。
「LUMIX DMC-FX90」も「付随機能」の強化に該当する。しかし、そのユニークなところは、コンパクトデジカメの衰退に拍車をかける不倶戴天の敵であるスマホの懐に飛び込むような付随機能を加えたことだ。確かに日常のちょっとした撮影はスマホのカメラで十分事足りる。しかし、「もうちょっとこう撮れたらなぁ・・・」と思うシーンは確かに存在する。そんな時はやはり、餅は餅屋。ピントや露出の調整や、撮影シーンに応じた自動調整などデジカメに一日の長がある。
スマホの普及率はどんどん高まっている。その環境の中で、「LUMIX DMC-FX90」は「スマホの周辺機器」というポジションを獲得することを目指しているのではないだろうか。つまり、中核機能として「スマホカメラの補完」があり、実体価値として「スムーズな連携」がある。付随機能として「デジカメ単体としても使える」という、価値構造を逆転させた発想だ。
市場環境の変化で顧客にとっての商品の価値や競合関係は変化し続ける。その中で生き残るためには柔軟な発想が必要なのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。