ニンテンドー3DSが8月11日に1万円の値下げに踏みきり、新価格15,000円となった。発売わずか5ヶ月での大幅値下げ。そこには任天堂のどのような意図が隠されているのだろうか。
任天堂が当初2万5千円という価格で3DSを発売した意図は、単なるポータブルゲーム機というカテゴリーと一線を画す製品であり、自社のDSシリーズやPSPと競合となる存在としてはとらえていなかったのではないだろうか。中核価値として、どこでも裸眼で3D映像のゲームが楽しめるという機能を置いた。3DSで新たに搭載されたゲームしている間、常時他の3DSユーザーを無線探索して通信を行う「すれちがい通信」の機能が実体価値だ。(3Dポータブルゲーム機はまだ成熟期に達していないため、付随機能は付加しなくとも売れるという読みもある)。ところが、消費者にとっては3DSも単なるポータブルゲーム機の1つにしかすぎなかった。つまり、3D機能は、「あればうれしい」という付随機能として受け取られたため、そこに競合機種より1万円高い金額を払うことはしなかったのだ。
1万円値下げで1万5千円に設定したことは、自社のDSi、DSi LL、競合のPSPと価格的に同じテーブルに着いたというだけではない。任天堂が3DSを特別扱いすることなく、あくまで「普通のポータブルゲーム機」として提供し、3D機能を実体価値に位置付けたことを意味する。これからもDSi、DSi LLの販売は継続するであろうが、自社のDSシリーズのメインストリームはあくまで3DSとし、「ポータブルゲーム機に3D機能が付いているのはアタリマエ」という訴求を展開していくと考えられるのである。
別の側面でも検証してみよう。新製品の価格設定には高価格・高利益を目指す「スキミングプライシング(上澄み吸収価格)」と、低価格・高シェア獲得を目指す「ペネトレーションプライシング(市場浸透価格)」がある。スキミングは高価格でも受け入れてくれる支持層がいることを背景に、高い利益を得て開発費などの初期投資をできるだけ早く回収し、徐々に価格を下げてターゲットの裾野を広げていくことが基本だ。一方、ペネトレーションは利益ギリギリの価格でとにかく市場のシェアを自社で押さえて、競合に参入障壁を築くことが目的だ。利益は販売数を増して「規模の経済」と「経験効果」で原価率を低減して創出していく。3DSは当初、スキミング価格の戦略であったのを、一気にペネトレーション価格に転換したのだ。ゲーム機が普及しなければ、ソフトも売れず、ソフトが売れなければサードパーティーも開発してくれない。魅力あるソフトがなければゲーム機も売れないという悪循環を発生させないことを最優先したのである。ペネトレーションは販売数がさばけ、シェアが取れて原価低減効果が出なければオシマイな戦略だ。任天堂は今後、背水の陣で販売攻勢をかけてくることがもはや明らかである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。