P&Gの「髪の手触り」という訴求に学ぶ

2011.07.30

営業・マーケティング

P&Gの「髪の手触り」という訴求に学ぶ

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 P&Gから、「髪の手触り」に焦点をあてたシャンプー、コンディショナー、トリートメントなどのヘアケア製品がリニューアル発売された。その意図はどこにあるのだろうか。

 製品の提供価値は目に見える、有形のスペック(仕様)的な価値=「機能的価値」と、無形で感じ取る、気分などに影響する「情緒的価値」に二分できる。

 ヘアケア製品は成熟化しており、機能的価値では差別化困難なため、「ハーバルエッセンス」は従来から「香り」=ヘアケア製品の拡大価値に注力して「情緒的価値」を訴求していたといえる。体臭も薄く身体や身に付ける物に関して「無臭」を好んでいた日本人にとって、「香り」を身にまとうということは特別なこと、「ハレとケ」の「ハレ」である。リリースでも<いつまでも髪から咲き誇る表情豊かな香りが、ハッピーの予感に満ちた一日をナビゲートする>としている。
 だが、日本人の香りに対する関心は年々高まっている。「衣類の洗濯」の世界を見れば、「ダウニー」が火をつけ、国産メーカーもこぞって参戦している「香り付き柔軟仕上げ剤」が人気になっていることがその証左だ。そうなると、早晩ヘアケア製品も差別化の主戦場は「香り」になることが予想される。
 そこで、P&Gは先手を打ち、髪の「手触りが良くなる」という消費者にとっては潜在的な状態ではあるが「髪をさわって(さわられて)気持ちが良い」という機能と情緒両面に働きかける価値を訴求したのだと考えられる。先に挙げたリリースの一文には前段がある。<1回使っただけで実感できるなめらかな髪と、いつまでも髪から咲き誇る表情豊かな香りが、ハッピーの予感に満ちた一日をナビゲートする>というのが全文だ。新たな訴求ポイントを強調していることがわかる。

 重要なのは、P&Gが製品の技術に用いた、髪を「なめらか」にするという技術を、「手触り」という「効用」伝えることでシズル感を高め、情緒的価値に昇華させることに成功している点だ。機能的価値はなかなか具体的に伝わりにくいため、「○○配合」や「□□技術」という訴求しがちだ。技術を顧客視点で「効用」に置き換えることはとても大切なことなのだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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