7月8日付日本経済新聞にカタログ大手通販会社・千趣会の新展開が報じられた。記事は「千趣会 クリーニング衣料最長8ヶ月保管」というタイトルである。その狙いは何だろうか。
千趣会が展開するのは<衣類のクリーニングと最長8ヶ月の長期保存を組み合わせたサービス>だ。12日からスタートするという。具体的には<ネットで受注後、利用者の自宅に専用のバッグを送り、宅配便で衣類を回収する。クリーニングした衣類は防虫・防カビ対策を施した24時間の空調の専用倉庫で保管し、利用者が事前に指定した返却時期に自宅まで届ける>というものだ。利用者にとっては便利この上ないように思えるが、このサービスのもたらす意味とは何だろうか。
上記のサービスをバリューチェーンで描いてみると、集荷→クリーニング→保管→配送という流れになる。千趣会はクリーニング業者ではないし、衣類の保管は「防虫・防カビ対策」という通常の通販貨物のストックとは異なる物流のため<クリーニングと保管は大阪府内の専門業者に委託>するという。
通常のクリーニング業者は顧客が店舗に持ち込んだ衣類を工場でクリーニングし、店舗で一時的に預かって返却する。当然、店舗のストックスペースには限りがあるので、なるべく早く返却したい。格安なクリーニング店では1週間以上取りに来ないとペナルティーを科される場合もある。
しかし、何かと手狭な日本の住宅事情においては、裏シーズンの衣類保管スペースを何とかしたいというニーズは大きい。それに応えているのが倉庫業者だ。例えばトランクルームの「寺田倉庫」は「ハンガーボックス」というサービスを提供している。10~15着の衣類を専用ボックスにハンガーに掛けた状態で集荷してもらい預け入れし、季節がくると配送してもらうというしくみだ。
預けるには便利だが、衣類のクリーニングまではやってくれない。そんな時に便利なのが、大手クリーニング業者の「白洋舎」は、クリーニングした衣類を除湿・防虫効果の整った保管庫で預かるというサービスを行っている。しかし、こちらは白洋舎の店舗まで持ち込みが原則のようだ。
なにやら「帯にたすき」でワンストップでのサービス提供がなされていないなぁ、と、消費者視点では感じられる。そこに目をつけたのが千趣会なのだ。
千趣会は集荷→クリーニング→保管→配送というバリューチェーンのどこを自社で行っているかというと、集荷・配送は運送会社、クリーニングはクリーニング会社、保管は倉庫会社が担当していると思われるので、実はどこもやっていない。つまり、バリューチェーン全体を統制し、新たな価値を作り出している「オーケストレーター」という役割を担っているのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。