「10分間1000円」の低価格カット専門店「QBハウス」を展開するキュービーハウスが新業態の展開を開始した。その巧妙な収益化戦略に注目してみよう。
7月1日付の日経MJに「キュービーネット 若者向けヘアサロン」という記事が掲載された。7月1日に東京・中目黒に「FaSS(ファス)」1号店としてオープンしたという。記事の写真は白い壁と白木の木目調の無印良品的なイメージの店内を映し、「ナチュラルかつエコな店舗をコンセプトにして、若い層を取り込む」とキャプションが添えられている。清潔さと機能性に特化した既存の「QBハウス」の店舗とはだいぶ様相が違う。コストもかけたのかなと思うと、記事には「無駄を省き出店コストはQBハウスと同程度に抑える」とある。初期投資とその償却費が重くならないようにするというポリシーはさすがである。
記事のサブタイトルには「カット・スタイリングで2100円」とある。「QBハウス」は「カットのみ、洗髪・顔剃り・セットなし・カットのみ」という、従来の理容店が行っているサービスを分解し、カットのみに特化したことが1000円という価格設定のポイントだ。「カット・スタイリング」ということは、スタイリングが1000円に相当するということだろう。
記事によれば「QBハウスと同様にコスト削減のため洗髪は手がけない(筆者注:QBハウスは洗髪しない代わりに巨大そうじ機ノズルのようなもので切った毛くずを吸引する)が、カットに加え、ヘアワックスなど整髪料によるスタイリングに対応」とある。そして、「20分程度で仕上げる」とある。
キュービーネットの戦略の基本はプライシングにある。前述の通り、従来の利用サービスを要素分解し、10分間のサービスに1000円という価格設定を行っている。QBハウスはカットのみで10分=1000円、FaSSはカット+スタイリングで10分+10分=1000円×2=2000円(税抜き)と、基本的なプライシングのポリシーは変えていない。
10分で1000円という価格は、意外かもしれないがキュービーネットが考えだしたものではない。理容・美容業界の相場なのだ。サービスの総提供時間を時間単価に換算すれば1分100円になるはずだ。それを上回る価格が設定されている場合は、店内装飾に凝って「高級店」というポジションを設定しているか、「○○アーティスト」など、スペシャルな肩書きが設定されている担当者がカットをしている場合だ。つまり、付加価値、もしくは付随機能。
業界相場が最もよくわかるのは、美容サロンによくある「前髪カット」だ。相場は1000円か1500円。所要時間は10~15分だ。サービスとして付加価値が設定しにくいため、各店とも業界相場そのものの価格に設定されていることが多い。理容店なら「顔剃り」。夕方などにうっすらと延びたヒゲをカミソリで剃ってもらう。スッキリして気持ちがいいし、デート前などにはオススメなのだがこれも相場は1000円か1500円。所要時間は10~15分だ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。