攻める!「ウィルキンソン ジンジャエール」の深謀遠慮

2011.06.21

営業・マーケティング

攻める!「ウィルキンソン ジンジャエール」の深謀遠慮

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 筆者の友人にダンディーな50歳男性がいる。彼は一切アルコールが飲めないにも関わらず、バーでひとりの時を過ごす習慣がある。カウンターに腰を下ろすとおもむろに「いつもの・・・」とバーテンダーにだけ聞こえるような低い声でオーダーをする。彼の前にスッと差し出されるのが、「ウィルキンソン ジンジャエール」だ。

 アサヒ飲料の「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」にかける意気込みは本気だ。
 ニュースリリースを見ると、前出の「アサヒ ドライスパークリング」の販売目標数は30万ケースであった。その目標数字は、サントリー食品が昨年まで毎年、ブランドとしての話題喚起のために発売していた、「ペプシしそ」や「ペプシバオバブ」といった「変わり種ペプシ」とほぼ同数である。しかし、「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」の目標は500万ケースだ。対比するならペプシブランドは全体で3000万ケース。その1/6とはいえ、飲料業界第2位のサントリーと、飲料業界第4位のアサヒ飲料の体力差からすればかなりのチャレンジであることがわかるだろう。

 アサヒ飲料はどこで勝負をかけるのか。
 飲料業界トップの日本コカ・コーラの力の源泉は、自販機の保有台数だ。日本に290万台あるといわれているうちの98万台を占める。サントリーは44万台。アサヒ飲料は大きく遅れて23万台である。今日、日本の自販機は完全に飽和状態にある。もはや好立地に設置することは難しい。しかし、自由に商品を展開でき、定価販売できて利益率が高いといううま味も捨てがたい。悩ましい選択である。

 「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」はコンビニで勝負をかけるはずだ。
自販機の台数で劣後しているからだけではない。理由がもう1つある。それは、コンビニの店内には飲料とアルコールが併売されているからだ。
 実は、商品パッケージには「ゼロ」の表示が目立たない代わりに、裏面にしっかりと「割り材としても。」と書かれている。何も「モスコミュール」「ジンバック」「ボストンクーラー」などの「オシャレにカクテルを作ろう!」といっているワケではない。コンビニで安く手に入る「ホワイトリカー(焼酎甲類)」を割るだけでいい。もしくは、アルコール度数が8%以上の「ストロング系チューハイ」を割って軽くしてもいい。そんな飲み方を密かに推奨しているのだ。
 
 アサヒ飲料のグループ会社であるアサヒビールには自社のウィスキー「ブラックニッカ」を使った缶入りの「ブラックニッカクリアハイボール」がある。しかし、ハイボールブームの火付け役であるサントリーの後塵を拝した状態であるのは否めない。世の中はビールのしっかりした飲み応えよりも、スッキリ系のハイボールやカクテル、チューハイがブームであるのは間違いない。その流れにしっかり乗りたいという意図が「割り材としても。」というひと言には込められているのである。自販機で購入して、家に持って帰ってカクテルを作るという消費者行動は考えがたい。故に、コンビニが主戦場なのである。

 飲料がコンビニの棚に並ぶには、2段階のハードルがある。チェーン本部が扱いを決めることと、フランチャイズのオーナーが本部に発注することだ。初回ロットはメーカーと握った本部の押しと、メーカーがマージン率を通常より1割ほど高く設定することもあり、店頭に多めに並ぶ。第2回発注分から通常のマージン率になるので、そこからが本当の勝負だ。今後、どのように健闘していくかウォッチしてみよう。まずは、その辛口を楽しみながら。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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