筆者の友人にダンディーな50歳男性がいる。彼は一切アルコールが飲めないにも関わらず、バーでひとりの時を過ごす習慣がある。カウンターに腰を下ろすとおもむろに「いつもの・・・」とバーテンダーにだけ聞こえるような低い声でオーダーをする。彼の前にスッと差し出されるのが、「ウィルキンソン ジンジャエール」だ。
オトナの炭酸飲料の代表格を1つ挙げるとすれば、それは間違いなく「ウィルキンソン」だ。アルコールの「割り材」としての炭酸水やトニックもあるが、「なるほど!ジンジャーエールって、ショウガ辛いんだ!」と初めて飲むと驚く「ドライジンジャエール」は特にオススメだ。日本では圧倒的なシェアを占める「カナダドライ ジンシャーエール」の甘さに慣れた舌には強烈な刺激を感じるだろう。
飲料の主な販路(チャネル)は、消費者にとって目に付くところでは自動販売機とコンビニエンスストアだろう。各々の販売シェアは35%と25%。では、残りはどこのチャネルなのかといえば、量販店やスーパーだ。2リットル大型容器まで含めれば、総販売量でのシェアが大きくなる。もう一つ忘れがちなのが、料飲店である。
冒頭の筆者のダンディーな友人のような下戸にノンアルコール飲料は欠かせない。いける口にはカクテルに早変わりだ。ジンジャーエールを用いるカクテルといえば、ウォッカとライムジュースを加えて「モスコミュール」が作れる。ジンとレモンジュースを加えれば「ジンバック」。ジンをラム酒に変えて、砂糖を加えれば「ボストンクーラー」のできあがりである。割り材としてカクテルに用いられる幅は広い。
そんな夜の街から明るい日の光の下に躍り出たのが、「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口 PET500ml」である。6月14日に全国販売された。500ml以下の小型容器飲料の主要チャネルであるコンビニの店頭を狙っている。
料飲店で出される商品と何が違うのか。「ウィルキンソンジンジャエール」といえば、緑色の小瓶が有名だ。容量も190ml。しかし、容器・容量の違いだけではない。オトナにうれしい「カロリーゼロ」なのである。
しかし、商品のラベルを見ると「0」とか「ゼロ」の表示はない。成分表示を見なければわからない。なぜ、アピールしないのか。そこにはアサヒ飲料の戦略があるのだ。
コンビニエンスストアの飲料の棚を見ると、ここ数年で変化を感じないだろうか。08年頃から始まった2007年3月27日に発売された「ペプシネックス」を皮切りに「カロリーゼロ炭酸飲料」ブームがわき起こった。それは、08年秋のリーマンショックで飲料業界全体が地盤沈下をした中でも収まることはなかった。しかし、今日、棚を見るとどうだろう。飲料のラインナップに最もコンサバティブなコンビニチェーンは、筆者はセブンイレブンだと思うのだが、そこにあるカロリーゼロ炭酸飲料は定番の「ペプシネックス」「コカコーラゼロ」「CCレモンZERO」くらいだろう。つまり、一過性のブームで登場した商品の多くは消え去っているのだ。
ブームに遅れて乗った商品と見られたくない。そんなアサヒ飲料の意志が感じられる。
アサヒ飲料はかつて、「大人炭酸シリーズ」として第1弾「グリーンコーラ」を発売した。CMに出ないことで有名な大ロックスターの氷室京介を起用し、大きな話題をさらった。続く第2弾ではジンジャーエール風の「アサヒ ドライスパークリング」を発売した。しかし、これは第1弾ほどの話題にはならなかった。「アサヒ ドライスパークリング」は「ハードでドライな刺激・大人の辛口炭酸」であると同時に「カロリーゼロ・糖質ゼロ」をウリにした。その商品との同一視を避けたいという意向もあるのだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。