「落穂拾い」「晩鐘」「種まく人」などの作品で有名なバルビゾン派の画家・ミレーは「人を感動させるためには、まず自らが感動しなければならない」と言った。
■産みの苦しみと誕生した価値
ポテトチップスという商品の価値定義を変える。従来見たこともないようなポテトチップスを作るという大きなチャレンジが始まった。開発者が目を付けたのは、日本では商品化されていない米国の「釜揚げタイプ」のポテトチップスだ。従来のポテトチップスより分厚く、カリカリした食感が楽しめる。
しかし、通常のポテトチップスで人気のフレーバーを試し「味のバリエーション」を訴求したものの売れず、97年にはストレートに「美味しさ」を前面に出して訴えかけたが市場の反応は芳しくなかった。各種のリサーチや地域限定テスト販売などを地道に続けるが、大きな手応えを得られないもどかしい状態が続いた。
ついに98年に「噛むほどうまい!」というコンセプトにたどりつき、この商品の価値は「噛みしめる美味さ」であることが明確化できた。フレーバーはシンプルな「うすしお味」と「ブラックペッパー」の2種に確定した。
「商品に対する確たる手応えをつかむまでの売れない日々が乗り切れたのは、社内にしっかりファンができていたからです」と担当者は営業だった当時を振り返る。彼を支えたのは、「食べてもらえればわかる」という商品価値に対する確信だった。そのため、試食のローラー作戦もひたすら商品の価値を信じて実行したという。その甲斐もあって、商品ユーザーの食用のきっかけは「人に勧められて」が多いという。市場に価値が認められたのだ。
■価値を伝えるべき人
商品は決して万人受けするものではない。「価値が判る人」を囲い込んでいく。そのために、エリア毎に確実に拡大する展開がとられた。通常品は誰もが手に取る商品。「堅あげポテト」は判る人に手に取ってもらう商品。手作り感や職人仕事という価値を共有できる人がターゲットなのだ。ターゲットは年齢の属性でセグメントするというよりは、やはり価値感が重要である。それ故、当初は20代を中心としたヒットであったが、その後ユーザー層は40代にまで拡大した。
ポジショニングは「自分で買って食べるポテトチップス」。親から与えられたり、家人が買ってきたりしたものを食べるのではない。「親しみ」と「こだわり・通好み」はトレードオフの関係にある。あくまで後者のポジションを取るため、パッケージにはおなじみのジャガイモのキャラクターは存在しない。
■弱点を克服する
大ヒットの兆しを感じる「堅あげポテト」には大きな弱点があった。生産だ。
通常のポテトチップスは「じゃがいもの選別→水洗い・皮むき→スライス→水洗い→180℃で2~3分揚げる」という生産プロセスをとる。一方、堅あげポテトは「じゃがいもの選別→水洗い・皮むき→スライス→180℃より低い温度で8~10分揚げる」と、スライス後の水洗いをせず、じっくり揚げ時間をかけるという方式だ。その分、うま味は逃げないが、素材のじゃがいもの選別に妥協ができない。また、揚げ時間は生産効率に直結する。大量生産ができないという弱点になるのである。
「もっと作れば売れるのに作れない」というもどかしさが今度は襲ってきた。しかし、「うすしお味」「ブラックペッパー」の2種のフレーバーでエリアを広げて着実に売っていく。社内では焦らずじっくりと展開することが暗黙の了解になっていた。
そして、機は熟した。市場のニーズの高まりを受けて、2010年度についに「のり味」「コンソメ」の2種を加え、全国の需給担当者とともに需給バランスの最適化を図り、市場ニーズとのミスマッチを解消した。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。