曖昧に考える力〈下〉~“にじみ”を省く思考がもたらすもの

2011.02.03

仕事術

曖昧に考える力〈下〉~“にじみ”を省く思考がもたらすもの

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

思考力は行動の源泉でもあるために、曖昧な思考力の脆弱化は、仕事を具体的に指示されなければできない社員、みずからの仕事をみずからつくり出せない社員が増えることと決して無関係ではない。

 ただ、私が結論として言いたいのは、曖昧に考える(ファジー思考)力だけでなく、やはり具体的に考える(ソリッド思考)力も同様に重要であるということだ。この2つは車の両輪であって、2つがうまく掛け合う状態が最良である。

 例えば、MBA(経営学修士)課程でよく用いられるケーススタディ学習を取り上げよう。学習者は、まずケース文を読む。このケース文には、ばらばらとファクト(その事業に関連して起こった出来事やデータなど)が書かれているだけである。
 このケース文は、いわば必要最小限度のソリッド情報と、行間にたっぷりとにじみを含んだファジー情報の混合素材である。学習者はこれを読んで、大いに想像をはたらかさねばならない。事業はどんな状況に置かれていたか、経営者はどんな心境だったか、こういう手を打てば競合他社はどういう反応をするか……これらは曖昧さの中で行うファジーな思考である。にじみを大きく膨らませて、そこでさまざまにシミュレーションを試みる作業となる。
そ して次に、学習者は、その事業がなぜ成功したか、失敗したかの要点を整理する。それは5つの要因にまとめられるかもしれないし、1つの図に表現できるかもしれない。これは、曖昧さを固形化させる作業であり、ソリッド思考が求められる箇所だ。
 そして、それら成果物をもとに、クラスでディスカッションを行う。これはまた、ファジー思考とソリッド思考の往復になるだろう。そしてそのケースで得た自分なりの結論を、今度は自分が直面する事業に応用する。そこでもさらに、ファジーに考え、ソリッドに考える往復が待っている。
 ただし、昨今、そこかしこでやられているケーススタディは、事例をお決まりのフレームワークに流し込んで、それで何かを学んだように錯覚しているところが問題である。「4P」やら「SWOT」やら「5Forces」に流し込むのが学習の目的ではない。

 理想は下図のような位置で、2つの思考が相乗的に回転することだ。切れ味鋭いダイヤモンドの刀を持ち、みずからが考えるものを明快に切り出し、造形する力を磨くとともに、内には豊かな知識・叡智を湛え、ひとたび稲妻が走るや否や、新しい何かを生み出す力を持つ―――その両回転だ。
 そのために大事なことは、物事を究めたいという意志を強く湧かせることだろう。そして、借り物でない中身の詰まった自分自身の思考をすることだ。

 理を尽くして考えて考えて、曖昧さにたどり着くことは自然に起こる(ゲーテが不可知論にたどり着いたように)。合理性と曖昧さは相反しない。ただ、ラクをして考えたい効率性や功利主義の人間にとっては嫌うべきものなのだろう。理を尽くして考え持った曖昧さは、そのままその人の考える力になる。強い思考力を持った人は、内に相当の曖昧さを保持した人なのだ。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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