日本マクドナルドが今月末から東京・世田谷の店舗で試験的にデリバリーサービスを開始し、来年4月までに都内で10店舗程度、夏をめどに全国展開をするという。
価格設定には3Cの視点が必要だ。自社視点(Company)・顧客視点(Customer)・競合視点(Competitor)である。
前述の例で、「顧客視点」で「この程度までなら払っていいと思う価格(Customer Value)」に基づいているのが、「ラーメン1杯=タクシーの初乗り料金相当」だ。そして、専門店でないので、それより少し安めに設定して、配達料込みにしているのが、住宅地の中華屋やそば屋の価格だ。その価格に比べて、「自社視点」で配達料を価格に転嫁し手いる分だけ割高になっているのがピザーラやCoCo壱番屋の例。そして、先行するデリバリー専業や、デリバリー対応飲食チェーン対して「競合視点」で勝負をかける価格設定に出ると筆者が予想するのが日本マクドナルドの展開だ。
サービス開始に当たって、値上げか、別途宅配料を徴収と表明している。しかし、まずは1店舗で試験を開始し、次に4店舗。その次に全国展開という段階的施策は「赤字を出さないギリギリの配達料金(もしくは値上げ)」を探るためだと思われる。
代表的なセットメニューである「ビッグマックセット」は、地域別価格の平均が650円程度となるだろう。その場合、ピザーラやCoCo壱番屋の配達料と同じロジックなら、メニュー100円値上げ+配達料1軒200円で、配達人件費1件333円を賄って約1,000円となるはずだ。しかし、「顧客が払ってもいい」というcustomer Valueでマクドナルドのセットに1,000円はないだろう。故に、できるだけ低廉な価格転嫁か配達料の設定を考えているはずなのだ。例えば、「配達はセットメニューのみ。店頭メニュー価格+100円で、注文は3件以上。宅配料は無料」というような設定だ。
手軽に、低廉な料金で、誰もが知っているマクドナルドのメニューが配達してもらえる。それが実現した時、「手軽」という中核価値だけの「店屋物」や、「当たり外れがない味」という実体を伴ったデリバリー専業や対応店に対しても、競合優位なポジションをマクドナルドは構築することになる。
マクドナルドは他業態に対して価格的に「競合優位」を構築しようと考えてはいないかもしれない。しかし、強大な力を持ったコストリーダーが、別の業界に進出したり、今まで以上に注力したりした時、既存のプレイヤーは甚大な被害を受けることがある。例えるなら、米国において2005年にウォールマートが玩具に力を入れたことによって、米・トイザらスは一時、投資会社に身売りをすることになるという憂き目を見た。
24時間体制・1,300店以上の市場カバレッジとコスト競争力で、外食事業において向かうところ敵なしの日本マクドナルドが、デリバリー事業に進出をするということは大きな変化を業界内にもたらすことは間違いないのである。
来年の夏、全国規模での展開がどのような形になるのか、目が離せない。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。