11月24日付日経MJのコラム「ヒットのヒミツ」に紹介された、花王「クイックルワイパー ふわふわキャッチシート」のヒットのワケを深掘りしてみよう。
しかし、仕様の強化だけでは、また競合に模倣されることは間違いない。そこで、花王は新たなターゲットを獲得すると同時に、付随機能の価値を高める戦略にでている。付随機能とは、「直接的に中核的な価値の実現に影響はないが、あれば魅力を高める要素」である。花王は「一昔前に比べて掃除の仕方を知らない若者も増えている。そこで、CMキャラクターには阿部サダヲさんを起用。特設サイトにDr.クイックル研究所と題して掃除法も提案した」(同記事)のである。CMとサイトで製品の使い方提案という付随機能でターゲットを拡大し、さらに製品の利点を詳細に訴求して、既存ユーザーの買い換えを促しているのだ。
企業が利益を上げるためには、顧客のライフステージの中の購入タイミングに合わせることが第一歩だ。人生の大きな変化だけでなく、シーズナリティーも重要で、今は大掃除需要に向けたタイミングだ。そこで、同種の商品の買い換え、買い増しである「アップセリング」を図る。「従来の2倍強ごみが取れる」ことが理解されれば、シートが他社と共通化している以上、他社ユーザーの買い換えも期待できる。そして、Webサイトの「Dr.クイックル研究所」では、クイックルワイパーブランドの他商品による掃除方法も提案しており、関連商品の販売である「クロスセリング」も狙っている。そして、シートは使い捨てなので、囲い込んで収益を上げる「アフターマーケティング」を図る意図である。
「自動お掃除ロボット」として、米iRobot社の「ルンバ」の販売が好調であったり、トイレ掃除もパナソニック電工の全自動お掃除トイレ「アラウーノ」が新築やリフォームで指名買いされたりと、掃除の簡便化に対するニーズは確実に高まっている。そうした世の中の変化も敏感に捕まえて、既存ターゲットには商品力強化を。新たなターゲットには使い方提案を行うというきめ細かな展開が、日用品という成熟市場には欠かせない。
2015年には日本は人口だけでなく世帯数すら減少に転じる衰退市場になるマクロ環境にある。単純な価格競争による販売量競争ではなく、価値を高めて収益を上げる工夫が求められているのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。