11月17日付日経MJ6面の小さなコラム「消費 見所 カン所」に、丸井グループの青井社長のコメントが掲載されていた。タイトルは「見えない価値取り入れ」。 「見えない価値」とは一体何だろうか。
今日、ファッションはすっかりコモデティー化した。誰でも買うことができる低価格衣料を牽引するファストファッション勢。H&M日本上陸の2008年はコム・デ・ギャルソンとのコラボレーションが話題になったが、今年はランバンとのコラボだ。ユニクロはジル・サンダーがデザインする「+J」を、かつてのジル・サンダーブランドの価格と0が1つ違う価格で展開する。さらにZARAは、その年のトレンドをいち早く見極め、有名ブランドに遅れることわずか数週間で市場に投入する。ファッションで「人と違う価値」を消費者が手に入れるのはむずかしくなっている。
そうなると、注目されるのが「自分にピッタリ」という価値だ。丸井のPB商品のパンプスが8倍売れたのも、そうした背景からである。
日経MJの記事はまだ続く。<低価格衣料品店などが開発した保温性に優れた肌着が支持されているのも(青井社長は)同じ理由とみている>とある。ユニクロのヒートテック、イオンのヒートファクト、ヨーカ堂のパワーウォームなどだ。青井社長は<「開発者の視点で『高機能』という言葉がよく使われるが、お客さんからすると、冬でも厚着をしないでスマートに着こなせたり、Tシャツとしても着られたりする価値がある」からだ>という。
「体表から放出される水蒸気を熱にして・・・云々」というようなしくみ。さらに、「一般的なコットン素材と比べて・・・云々」という性能。そこからもたらされるのは、「機能的価値」、つまりスペックだ。様々な製品で技術的成熟度が高まり、差別化が困難になった今日、単なるスペックだけを訴求することはできず、差別化困難になり価格競争となる。しかし、デフレの世の中では、安くしても売れない。
ユニクロがこの冬売り出した「ヒートテックジーンズ」という商品。「冬でもジーンズをはきたい。でも、寒い。」という消費者のニーズギャップに応えるため、ヒートテック糸を織り込んだジーンズである。「発熱」「保温」「保湿」という3つの機能が示されているが、重要なのは「2枚ばきが不要です。寒い日も、ラクに細身シルエットを実現。」というコピーの方だ。その商品を用いると「どのような状態になれるのか」を示している。本当に「細身」なのかどうかは、はく人による。しかし、「今までモコモコしてたのは、ジーンズの下にタイツをはかなきゃならなかったから。これで、これからは細身シルエットになれるわ!」という気持ちになれることが大切なのだ。どのような気持ちになれるのか。つまり「情緒的価値」を提供しているのだ。
日経MJの記事は<今後の商品開発でも、消費者目線で「見えない価値」を取り入れようと(丸井の青井社長は)意欲的だ>と締めくくっている。
「自分にピッタリ」という「Relevantな価値」。「こんな気持ちになりたかった」と思わせる「情緒的価値」。そのどちらもが、機能やスペックで表せない「見えない価値」だ。さらに、その重要視するポイントや尺度は人によって異なる。だからこそ、より一人一人の顧客をよく見ることが重要となるのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。