「ヒットまでには実は長い寄り道があった」と、「無印良品」のマネージャーが語っているのは、あるジャケットの話。店頭で鳴かず飛ばずで、半年で大幅値引きの在庫一掃から、「顧客視点」で全面的な見直しを図り、計画の3倍という売上げにまで化けさせたという。11月8日付日経MJ3面コラム「着眼着想」に掲載された記事をもう少し深掘りして考えてみよう。
売れる商品には、良いマーケティング・ミックス(4P)の「整合性」がある。しかし、「旅に便利なジャケット」の整合性は4Pだけではない。
4Pを考えるためには、「誰に」「どのように魅力を打ち出すのか」という、ターゲティング、ポジショニングが欠かせない。同商品であれば、「旅行に行く人」に、「一枚持っていれば、不意に必要な時に困らず、かさばらずシワになりにくいジャケット」という明確な設定がある。
マーケティングマネジメントは、「ダメだった時には遡って考える」ことが大切なのだ。
この事例には、もう一つ重要な学ぶべきポイントなのである。そもそも、ターゲットを絞り込んだ点が勝因であることだ。
「ターゲットを絞り込んだら、対象者が少なくなってしまい、売れる数が少なくなってしまう」。そんな話をよく聞く。「作れば売れる」「誰もが同じニーズや嗜好を持っていた」時代。高度成長期の成功体験を引きずっている企業やビジネスパーソンに多い。そんな人は「旅に便利なジャケット」のような商品リニューアル計画を上申すれば、「そんなに対象者や販路、広告を絞ったらほとんど売れないだろう!」というはずだ。
では、無印良品の「たためるジャケット」のターゲットは誰だっただろうか。男性用なので、女性は除外できるし、大人用なのでこどもも除外だ。無印良品の非顧客も除外してもいい。だが、それ以外の設定はない。幅広いターゲットが、商品を見て、自ら使い道を考えて「これはいい!」と価値を見出さなければ売れない状態だったのだ。故に、在庫一掃処分の憂き目を見た。
「誰もが欲しがる時代」であった高度成長期から、「モノあまりの時代」といわれたバブル経済華やかなりし頃を経て、「消費者が消費しなくなった時代」ともいわれる今日。誰もが欲しがるモノも、差別化さえすれば売れるという経済環境もない。ピンポイントでターゲットを絞って、買ってもらえるような明確なポジショニングを示し、目にとまって、手に取られて、買いたくなるような商品と価格を提示して、ようやく売れるのである。
「ヒットまでには実は長い寄り道があった」という記事のマネージャーの言葉は、「売れるためには緻密なマーケティングマネジメントの整合性が欠かせない」という事実。そして、何よりも最終的には「顧客視点に立ち返って見直すことが大切」という鉄則にも通じる。貴重な事例として覚えておきたいものである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。