成功するマーケティング戦略、良いマーケティング・マネジメントの要件を上げるとすれば、その一つは間違いなく「整合性」である。それは普遍的な原則であるといってもいい。事例として、インドの低所得階層における冷蔵庫普及プロジェクトの発展段階を見てみよう。
ターゲットとその潜在ニーズを見極めた上で、どのようなポジショニングにすればターゲット層に受入れられるのかを考えた過程も秀逸だ。講演録では<チョットクールは冷蔵庫ではありません!チョットクールは別の商品カテゴリなのです!>とある。電気が通っていない場合もある。リビングで寝起きするような狭小な住宅に住んでいる。中古冷蔵庫のある家庭でも食料の長期保存はしないため水以外は保存されていないという状態。そんなターゲットに対して、「低価格な小型冷蔵庫を作りました!」というより、彼らの生活によりマッチする新しい製品カテゴリであると訴求した方が受入れやすいのだ。軽量なため、使用場所を固定しない可搬性がある。<12ボルトの直流電圧で機能し、バッテリーでもインバーターでも、太陽エネルギーでも機能>するため、電気が通っていなくても大丈夫。形状も絞り込まれた機能も、確かに従来のいわゆる「冷蔵庫」とは一線を画している。
ここまでで、インドにおける社会的(Social)・経済的(エコノミカル)なマクロ環境と、その中でのBOPというターゲット層とニーズ、ターゲットに受入れられるポジショニング。そして、ポジショニングを体現する製品(Product)と、その販売価格(Price)が整合していることが判るだろう。
しかし、問題はターゲット層に製品が行き渡ることだ。講演録にも<BOP層への道筋は簡単なものではなく、いくつかの挑戦に直面しました。広く薄く広がる市場、顧客の購買力の低さ、利用者側の認識の限界、大きな文化的多様性などです>とある。中でも最も厄介なのは「広く薄く広がる市場」へのアプローチ方法である。
潜在ニーズはあるものの、新たなポジショニングの商品を説明し、販売するには販売チャネル(Place)の整備がカギとなるのだ。そこで、日経の記事にある「郵便局と販売提携」なのである。
日経の記事によれば、「インド西部マハドラシュ州の郵便局と提携した」とのことだが、契約主体は政府系の「インド・ポスト」ではないかと思われる。販売方法は、<郵便局員が受注、配達、集金を担う>というしくみで、<受注1件ごとに275ルピー(約500円)を(ゴドレジ社が)郵便局側に支払う>というバックマージン方式だ。<同州の郵便局員は約6万3千人、うち配達人が8600人。冷蔵庫のない世帯の多い農村部にも拠点・人員を配置する点に着目して提携した>という。
従来にない新たなポジショニングの商品は、説明を要する商品である。その点、配達員による販売であれば、その機能を担うことができる。また、(市場の地理的広さが判らないが)8600人という人数は、ある程度のカバレッジを確保できているのだろう。ターゲティング、ポジショニング、製品(Product)、価格(Price)、販売チャネル(Place)の整合性が確保できていることが判る。
では、マーケティングミックス、いわゆる4Pの最後の1つ、Promotionはどうだろうか。4PにおけるPromotionは、「コミュニケーション」と読み替えることが多い。意味するところは、「販売促進(セールス・プロモーション)」や「広告」だけではなく、「広報」や、人が直接説明や実演、サンプル配布や営業を行う「人的販売」までを、きちんと総合的に組み合わせて考えるということだ。「コミュニケーションミックス」という。その点においては、販売チャネルである郵便配達員が「人的販売」をも担っている。さらに昨今は「口コミ」もコミュニケーションミックスに加えて考えるが、一連の施策で対象地域に口コミが伝播することも期待できる。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。