8月の月間全店売上高が過去最高を記録した日本マクドナルド。一方、牛丼戦争において「一人負け」と言われた吉野家は7日、新メニューで反撃ののろしを上げた。両者の戦略を比較してみよう。
9月2日、東京・赤羽の吉野家本社にて開かれたメディア向けの「新メニュー・牛鍋丼」製品発表会の冒頭。各メディアが伝えるところによると、同社の安部社長は硬い表情で、前年比15%ダウンという大変厳しい状況が今年に入って続いていると明言。「顧客からは『吉野家はどこへ行くんだろう』という声も聞かれた」と語ったという。
「どこへ行く」に象徴されるように、熾烈な牛丼戦争の渦中において、吉野家は価格やメニュー政策、キャンペーン展開において様々な係争を繰り返したと市場関係者はいう。しかし、今回の新メニューの投入において、吉野家は腹をくくって狙いを絞り、ブレないピンポイントな戦略に切り替えたことが見て取れる。
新メニューの「牛鍋丼」は、牛丼の具材である牛肉・タマネギに、しらたきと豆腐を加え、甘めの味付けのすき焼き風に仕上げた。注目は、牛肉以外の具材を用いることと、吉野家の一番のこだわりである「米国産ショートプレート部位」から、「米国産その他の部位+豪州産」へと牛肉の肉質を変更したことにある。その結果、280円という「定価」を実現した。今まで競合対抗で無理をして実現していた280円という価格を、新メニューの定価に据えた。それによって牛丼の380円の価格を守ることもできる。
新メニューによって、今後のメニュー戦略がどのようなものになるのかも予想できる。競合の松屋が豊富な定食メニューを展開しているのに対し、吉野家は定食メニューの開発が遅れ苦戦を余儀なくされた。しかし、吉野家は今後、定食メニューの開発よりも牛丼を頂点とした「牛肉系丼メニュー」で固めていくと思われる。10月7日には280円の「牛キムチクッパ」を投入する予定だという。割安な牛のバリエーションメニューですき家の280円牛丼に対抗。来店客にお試しクーポンなどで380円の牛丼を試す機会を確保し、自慢の肉質・味の違いを体感させて定着させる戦略だろう。380円はすき家のトッピングバリエーションの牛丼メニューとほぼ同価格だ。
「牛肉系丼メニュー」への絞り込みは、そのメニューを好む客層への絞り込みも意味している。幅広いメニューの松屋、トッピングの楽しさのすき家は女性層・ファミリー層の集客なども狙ってきた。吉野家もテーブル席設置店舗の展開などで、同様のターゲットの取り込みを図ったが、支持されるメニューもなかったことから空振りに終わっていた。恐らく、今後はメインの男性顧客層に絞り込んだ展開を行うと考えられる。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。