「自社の製品はどのような価値を持っているのか」を冷静に把握することは重要だ。それが、「誰から、どのように評価されるのか」を考えることは、さらに重要だ。
メレルの大ヒットのヒミツは、その価値構造を「獲得すべきターゲットに対してどのように訴求すべきなのか」を検討した点にある。
米国からの輸入品である、従来の地味なカラーの商品では、オシャレなアウトドアウェアのブームに乗ることはできないと判断し、日本独自のカラー展開を米国に掛け合い、反対を押し切って承認させたことで実現した商品だと記事にある。
今日では同シューズは、野外フェスティバルに出かける若者や、「山ガール」などに大きな支持を得ているというが、それらのターゲット層にとって、アウトドアシューズのカラーバリエーションは、「実体」たる「欠かすことのできない価値」なのだ。なぜなら、山や屋外で「足の保護」がなされ、「歩きやすさ」が確保されているだけでなく、「オシャレでいられること」も、「実現したい中核たる価値」であるからだ。
余談ながら、実は筆者もシリーズの目にも鮮やかな色に惹かれて朱赤のシューズを購入し、「せっかく靴もあることだから・・・」と昨夏は立山を歩いてきたのであった。まさに同社の戦略に乗った一人なのだ。
ソニーの創業者、故・盛田 昭夫氏は著書「21世紀へ」の中で「製品を商品としようとする場合には、その製品を手に入れたいという欲求を人々の間に喚起させなければ、いかに優れた製品であっても商品にはなり得ない」と述べている。
記事によると、メレルは今後さらなるチャレンジを考えているようだ。
<メレルはほぼシューズが中心。今後はウェアなどの販売にも力を入れ、全身でメレルを楽しんでもらいたい>とメーカーのコメントが掲載されている。ザ・ノースフェースなどの総合アウトドアブランドへの挑戦だ。
筆者はザ・ノースフェースのファンでもあるのだが、同ブランドもなかなかビビッドなカラーのウェアも展開している。しかし、メレルとしては、「アウトドアブランドで“色”といえばメレル」という、トップ・オブ・マインド(第一想起)を獲得することが求められる。かつて、「カジュアルウェアで“色”といえばベネトン」というブランド想起がなされていたように。
ちょうど前出の記事と同日の日経MJ3面コラム・「底流を読む」に、<山ガールにみる需要想起>という記事が掲載されている。<日本生産性本部の「レジャー白書2010」によると2009年の登山人口は前年比2.1倍に急増した。今年もさらに増えている。ブームの牽引車は「山ガール」>とある。そして、<野外キャンプのファッションに広がり、「川ガール」「海ガール」も増えている>とある。
メレルのターゲット顧客層はどんどん拡大している。しかし、ライバルも多い。その心をどこまでつかむことができるか、同社の挑戦に注目したい。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。