「こんなことでCMになるのかの、実験!」調子っぱずれの素人くさい歌声が耳から離れない「蚊に効くカトリス」のCM。しかし、その背後に隠された意図は、実験どころか精緻に練り上げられたものに違いないのだ。
従来にない全く新しい商品、つまりイノベーションの普及要件として、E.M.ロジャースが「観察可能性」を挙げている。
南米の農村において、ネズミによる被害をなくすために殺鼠剤の普及が行われた。毒入りの餌を食べたネズミは確実に死ぬ。しかし、殺鼠剤は村人の間では普及しなかった。理由は「効果が実感できなかったから」だ。殺鼠剤は遅効性の毒で、ネズミは毒入りの餌を食べた後、物陰や屋外に出てジワジワと死ぬ。即効性の毒なら、村人の目の前でのたうち回って死ぬだろうが、そのシーンを目にすることがないため、果たして効果があるのかを信じられなかったのだ。
ベープの例も同じだ。当初、ベープは無臭で、加温しても外見の変化が全くなかった。一晩、蚊に刺されずにすんだ。部屋をつぶさに観察すれば、いく匹かの死んでいる蚊が見えるがそんなことをする人はいない。故に、ベープの効果が実感できなかったのだ。その後、ベープは加温した際に立ち上る臭いをつけ。そして、マットに青い色をつけ、使用後には燃えかすをイメージさせるような白い色になるようにしたのである。
外出先で蚊の攻撃を避けようと思えば、虫除けスプレーを肌に撒布する方法が一般的だ。しかし、スプレーは汗で流れたり、擦れたりすると効果を失う。また、一日中持続するわけではない。また、どうしても、肌に塗って蚊を避けるだけだと、どうしてもディフェンシブ、消極的な防護策に感じられる。少なくとも、この世で蚊に刺されることが一番ぐらいに大嫌いな筆者にとっては。そこで、電池式でどこにでも持ち運べる携帯用の「カトリス」だ。薬剤を積極的に自分の周りに振りまいて、ほんの少しでも蚊に寄せ付けるスキを与えない。非常に攻撃的な防護策ではないか。しかし、カトリスは、「煙やニオイを出さずに蚊を退治できる」「よい意味で存在感のない蚊取り器」が商品コンセプトなのだ。CMの企画意図にあるように、「効きめの広がりがどうにも伝わりにくい」のである。だからといって、ベープのように虫除けの臭いを振りまいて歩き回るのをよしとする人は少ないはずだ。蚊嫌いの筆者だってイヤだ。
そこで、「今回のCMでは、テレビをご覧の方にカトリスの効き目の広がりが視覚的に伝わるような企画を考えました」という意図が効いてくるのである。
「実験!」といっている、その実験内容は、恐らく「どこまで口コミで広げられるか」だろう。印象的なCMソングの歌詞と歌声。映像はシンプルにして「効果の可視化」という伝えたいこと一点に絞り込む。そうすることによって、見る者のアタマにしっかりと刷り込むことができる。最後の調子っぱずれな「実験!」の声がアタマの中でループする度に、誰かに伝えずにはいられなくなる。 「実験!」は大成功だろう。ここでも筆者がその意図にはまっているわけなのだから。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。