「いつかはこの味にたどりつくと思っていた」。キリンの第3のビール「本格<辛口麦>」のキャッチコピーだ。たどりついた先にあるものは何だったのか。
一方で、スーパードライによって不動の1位を獲得したアサヒは、発泡酒や第3のビールが登場しても、同等の価値=キレを前面に出した商品を出せないというジレンマを抱え込むことになる。なぜなら、看板商品のスーパードライとカニバリ(共食い)を起こすことになるからだ。そこから、キレで負けたキリンの復讐劇が始まる。ビール首位の座を明け渡したキリンは「淡麗」や「のどごし」などのキーワードで「キレ」に相当する価値を訴求。市場全体におけるビールカテゴリーのシェア低下、第3のビール伸長の流れに乗ってビール系飲料全体におけるシェア巻き返しを図ったのである。
つまり、今回の「本格<辛口麦>」は、第3のビールによるキリンのスーパードライ切り崩しの最終形であると考えられるのだ。
一方で、アサヒビールのスーパードライにおける課題意識は、「ユーザーの若返り」にあるように思われる。もちろん、既存顧客の囲い込みも忘れてはいない。各種のスーパードライやビールグッズがもらえる”「うまい!をカタチに!」プロジェクト”を長期間展開しているのはその現れだ。一方で、この夏・銀座で話題のアサヒビールが運営する店、氷点下の温度帯(-2℃~0℃)のスーパードライを体感できる!「アサヒスーパードライ エクストラコールドBAR」は若者狙いである。キンキンに冷やして苦みを消し去り、昨今のビール離れをした若者に飲用習慣を付けようというものだ。
若者対策はCMのキャラクターにも表れる。福山雅治。1969年生まれの41歳ながら、とても40代には見えない若々しさで若年層にも人気。一方で、大河ドラマ「龍馬伝」の好演で年代を問わない支持を集めている。つまり、従来ターゲットである中高年と、課題ターゲットである若者の両方にリーチすることを狙ったキャスティングなのだ。
舘ひろしに話を戻そう。
「スーパードライ」キラーとしての「本格<辛口麦>」だとすると、舘ひろしの果たす役割は何なのか。
舘ひろしは1950年生まれ。今年還暦・60歳である。そんな彼がエネルギッシュにドラムを叩いて歌う姿は視聴者にどう映るのか。
若年層にとっての舘ひろしは、2007年にドラマ「パパとムスメの7日間」で、女子高生の娘と心と体が入れ替わってしまったパパとしてオトメなしぐさを怪演。2009年「ダンディ・ダディ?〜恋愛小説家・伊崎龍之介〜」で娘の恋愛にヤキモキするパパを演じるなど、パパキャラのイメージが広がっているかもしれない。だとすれば、今回の姿は意外な感じかもしれない。しかし、若年層はあくまでターゲット外だ。
ターゲットの40代にとっては、何といっても西部警察に始まり、柴田恭兵とのコンビ、鷹山敏樹巡査長役で定着したカッコイイ刑事のイメージだろう。スマート中年・福山雅治よりも、還暦・舘ひろしのドラマー姿に「アニキ、やるなぁ」と共感する層もあるだろう。
50代となると少々別のイメージが想起されるようだ。俳優・岩城滉一とともに結成していた、原宿・表参道を拠点にした硬派バイクチームにして「クールス」の総括。矢沢永吉の当時のバンド「キャロル」の親衛隊であった。そのバイクチームから生まれたバンド「クールス」のリーダーとしてとしてデビューした。1975年のことだ。いつの世もやんちゃなキャラクターは強烈なファンとアンチを生む。40代以上に50代では、「相変わらずやるなぁ」と共感する層とそうでない層は分かれそうだ。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。