「検索」。それはナレッジワーカーのビジネスシーンだけでなく、もはや日々の生活で欠かせない行為となっている。その検索についての示唆に富んだ2つの記事がメディアに掲載されていた。
それ以上に重要なのが、ユーザーの「本質的なニーズ」は何かということだ。
日経MJ6月28日総合面のコラム「IT新事情」に「検索依存からの脱却」という記事が掲載された。記事中で今年5月に刊行された「グーグル秘録(ケン・オーレッタ・著 土方 奈美 ・翻訳:文藝春秋)」の主旨が紹介され、<グーグルが最も恐れている存在は競合の検索エンジンではなく世界最大のSNS・フェースブックであることがわかる>としている。それは、<「検索」の価値を根本から脅かす存在としてソーシャルメディアを捉えているからだ>という。記事のサブタイトルにも「価値生む人のつながり」とあるが、その「人つながり」は「ソーシャルグラフ」と呼ばれ、<活性化すると情報の波及スピードは検索エンジンよりも確実に速くなる>とある。
しかし、問題はここでも「速さ」ではない。<ソーシャルメディアは潜在的な欲求を喚起できる可能性がある>としている。「人つながり」の中でのレコメンデーション(推奨)を指しているのである。
「人つながり」の「推奨」がなぜ、それほど効果的で、検索エンジンにとって脅威なのか。
実は理由は簡単。「人は、検索なんかしたくないから」だ。
人は検索エンジンに興味があるのではない。興味があるのはその「結果」だ。さらに、リスト化された一覧に興味があるのではなく、その先にある自分の知りたいこと、欲しい情報に興味があるのである。
検索をするのは、何らか「知りたいことがわからない」という、「ニーズ」が存在する。 それを満たす「ウォンツ」、つまり「道具」が「検索エンジン」なのだ。「こんなたくさんの情報が、あっという間に表示される!」という感動を覚えたこともあるが、それはもはや昔日。自分に必要な情報にさっさと辿り着き、それが確かに有用であるという確証が得られることが大切なのだ。それを実現してくれるのは「検索」である必要はなく、むしろ「信頼のおける人の書き込み」の方が有用である場合も少なくない。
「ニーズ」と「ウォンツ」の取り違え。顧客ニーズによりよく応えようと、自社の製品・サービスに磨きをかける。しかし、その努力に邁進するあまり、本質的なニーズを忘れ、思いもよらぬ「代替品」となる存在に顧客を奪われる。そんな例が過去から現在に至るまで多数繰り返されてきた。古くはハーバード大学大学院教授・セオドア・レビットが1960年にハーバードビジネスレビューに発表した論文『マーケティング・マイオピア(Marketing Myopia:マーケティング近視眼)』で指摘している。米国の鉄道会社の衰退は顧客ニーズの変化に気づかず、自動車やトラックや航空機という輸送の代替品にその座を奪われたという例だ。
高度進化した検索エンジンに対するユーザーのニーズは刻一刻と変化し、さらなる高度化を求める。しかし、その一方でGoogleすら脅かすソーシャルメディアの「人つながり」が代替としての存在感を増す。この一連の変化は「検索」やインターネットの世界だけのことではない。顧客ニーズと競合環境の変化を見極めるべき事例として注目すべきである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。