マクドナルドがチキンメニュー強化に動いた。「ケンタッキーに対抗」とメディアや消費者は受け止めているようだが、マクドナルドの狙いは遙かに上をいっているように思われる。
シェア10%アップ達成のシナリオをどのように描いているのかを推測してみよう。
原田社長の発言にある「640億円16.3%」の状態から10%押し上げる。メニュー平均単価300円とすれば、チキンメニュー約1億3000万食を販売することになる。
1億3000万食に向けて初速を付けるためのプロモーションが1000万人試食キャンペーンだ。
<チキンの美味しさをお楽しみいただく1000万人のお試しキャンペーンにチャレンジ>
http://www.mcd-holdings.co.jp/news/2010/promotion/promo0621b.html
6月4日から開始されたキャンペーンでは、各種の新メニューを一口サイズのお試しで手を変え品を変えて提供し、7月1日には商品のチキンを丸々1本配布するという太っ腹な展開を用意しているという。その様子と味の感想をTwitterでつぶやいている人も多く、好評のほどがうかがい知れる。
1000万人のサンプル効果をちょっと乱暴に試算してみる。体験者の35%が購入。体験者が5人に対して口コミをして、そこから25%の購入が発生。さらに再購入を1~12回する人が35%~10%程度に分布するという楽観シナリオで考える。すると、1億3千万食のうち、サンプルと口コミ効果で達成率50%強のところまで持っていくことができる。初速は十分得られるだろう。残り半分は、通常のテレビCMやクーポン等のプロモーションが担うことになる。
チキンでも覇権を狙うマクドナルドであるが、それは原田社長によると<「原動力は客単価よりも客数の向上。チキンでさらに新規顧客を獲得したい」>(同J-CASTニュース)と、客数増が目標であるとしている。そして、その目標は大型メニューであるクォーターパウンダーの登場期を上回るという。
マクドナルドの基本戦略は、筆者はクォーターパウンダーやビッグアメリカ等の高単価メニューと、客数を稼ぐ100円メニューやコーヒー無料などの展開を交互に投入し、売上=客数×客単価のコントロールを絶妙に行うことにあると考えている。時折、復刻版や改良版の「照り焼き」や「月見」バーガーなど日本オリジナルメニューを投入し、「中価格帯」を補完するのもその調整の一つだ。
しかし、今回のチキンは「客数獲得」と「高利益」を狙うオールマイティーなメニューであることが、原田社長の<「他のメニューよりは粗利は高い」>(同)というコメントから伺える。100円メニューを廃し、メニュー単価を最大50円引き上げた新型店舗の投入で、利益率向上を狙うマクドナルドの戦略とも符合しているのである。
チキンでの覇権を一気に狙い、壮大な目標数をクリアするための大規模キャンペーンを展開。さらにその背後には、客数増と利益率向上を同時達成しようという狙いも用意するという展開が今回のキャンペーンの全容だ。毎度のことながらスキのない展開を魅せてくれるマクドナルドなのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。