「噛む~とフニャンフニャン」のロッテのガム・Fit's(フィッツ)。佐々木希と佐藤健のCMも第3弾となって、ダンスはどんどん高度化するも、絶好調だ。しかし、「噛み心地が少し固くなった」との声がちらほら聞こえるようになってきた。何が起こっているのか。ロッテの戦略は?そしてガム業界はどうなっているのか?
■「噛み心地」という「中核価値」を支える技術
ガムは植物性を中心に、各種の樹脂や炭酸カルシウムなどを混合して作る「ガムベース」に砂糖やキシリトールなどの甘味料と軟化剤、香料を混ぜて作る。ロッテは植物性の天然チクルにこだわっているが、歯にくっつきにくいという特徴を出すため「フリーゾーン」ではあえて合成樹脂を使用しているという。つまり、噛み心地はガムベースの配合によって決まるのだ。
フィッツの「噛むとフニャン」は、これからのガム市場を支えるべき若年層を取り込むべく、中核価値である噛み心地を嗜好に合わせてチューニングした必殺兵器であったのだ。
■確かに固くなった噛み心地
ここで、冒頭の「フィッツの噛み心地が少し固くなった」に話を戻す。筆者自身も確かめてみた。発売時の3種に追加で2つのフレーバーが出ていたが、どれも以前より確かに固く感じられた。ロッテのお客様相談室に問い合わせてみた。「確かに、少し固めにリニューアルしました」との回答であった。
リニューアルの意図は聞き出せなかったが推測はできる。それは、噛み心地だけでなく、その噛み心地をどのように楽しめるのかという、ガムの「実体価値」であるフレーバーに注目してみればいい。
■若年層の嗜好の変化とガムのフレーバー
若年層における食の嗜好の変化で昨今、注目されているのがカラシ、わさび、唐辛子などの「刺激物の忌避」である。 回転ずし「くら寿司」を全国展開するくらコーポレーションでは、若年層を中心に「さび抜き」を注文する客が多いことから、全皿をさび抜きし、わさびをテーブル備え付けにして好みで使用する仕組みに変更したという。
ガムでも同様の傾向がある。若年層が好むのは「果実系」である。「ミント系」は忌避される傾向が強いという。前出のグリコのスクイーズは「搾り果汁ガム」と銘打ち、あっさりとミント系を切り捨てている。
リーダー企業たるロッテはグリコのような差別化集中戦略を取ることはできない。必殺兵器・フィッツで若者をガムにしっかり取り込まねばならない。フィッツの発売時、フレーバーは「シトラスミックス」「ミックスベリー」「ペパーミント」の3種だった。中でも「ミックスベリー」は大人気となって、原材料が不足して一時販売中止となった。やはり果実系強しである。
■フィッツのフレーバー戦略と噛み心地の変化
単に若年層にウケることを狙うのなら、「ペパーミント」はいらない。しかし、やはりガムの王道はミントだ。果実系から入ってガムを噛むことを習慣化させ、やがて製品層の厚いミント系を試させて、フィッツ以外の製品にも拡大させたい。そんな願いが込められたフレーバーの展開であると推測できる。
さらにその後追加されたのが「エアミント」。ペパーミントにメントールのクールさを追加した、より「オトナの味」である。徐々に「ガムのオトナの階段」を上らせる戦略だ。
そして、味だけでなく、いよいよ「噛み心地」にまで「オトナの階段戦略」を踏み込んだのが「フィッツの噛み心地が少し固くなった」背景ではないか。
但し、急いては事をし損じる。果実系の極地ともいうべき、あま~いフレーバーの「ピーチミックス」を追加することも忘れていないのがさすがだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。