「こうすると必ず売れる」。伊吹卓氏の『なぜ売れるのか』には、こんな にも刺激的な一文がある。伊吹氏によれば、必ず売れるようにするための 方法は二つある。苦情法と着眼法の二つだ。
苦情法とは、お客様の苦情をよく聞いて、素直に反省して改善すること。
着眼法とは、よく売れている商品に眼を付けて、素直に見習おうという姿
勢を続けること。これが商売の二大秘訣だと伊吹氏は説いている。たった
これだけ。しかも、着眼法はともかく苦情法の方は決して難しいことじゃ
ない。やろうと思えば、たぶん誰にでも今日からできるぐらい簡単なこと
だ。
ところが、世の中の99%の人は失敗していると氏は指摘している。なぜ
なら、せっかくの秘訣をみんな実践しないからだ。
なんとなく禅問答めいた話かもしれない。しかし苦情法についてはいろん
な人が、いろんな言葉で同じようにその効能を説いている。たとえばリク
ルートで「とらば?ゆ」「フロム・エー」「エイビーロード」と立て続け
に花形誌を立ち上げた、くらたまなぶ氏。くらた氏は、何か新しいことを
始めるときに、とにかくそのテーマに関しての「不」を集めることから始
めている。
「とらば?ゆ」創刊時に集めたのはOLの「不」。現状への不満、不平、
不信、不具合、不安、不快、不自由などをくらた氏は聞いて聞いて聞きま
くった。「エイビーロード」発刊時には、海外旅行についての不を集める
ことからスタートしている。そうやってまずターゲットの「不」を片っ端
から集め、その「不」を解消する情報提供をコンセプトとした「とらば?
ゆ」や「エイビーロード」はいずれも大ヒットとなった。
「不」を聞くことが効果的なのは、何も一般消費者を相手にする場合だけ
ではない。産業材の分野でも同じだ。もっというならB2Bの領域では、
顧客の「不」の解消はすべてビジネスチャンスにつながると言い切っても
いいぐらいだ。
その好例が以前紹介したキーエンスだろう。同社の営業マンは、とにかく
現場へ入っていく。生産現場での「不」を地道にコツコツと聞いて回り、
その不を解消する製品を提案する。現場の声が的確に反映され、問題解決
をしてくれる製品が受け入れられないわけがない。その結果が、営業利益
率56%というお化け的な数字となっているわけだ。
キーエンスの場合は、特に技術的に特記するほど優れたものを持っている
わけではない。もちろん平均以上の技術力は備えているにせよ、技術的な
基礎研究でみればもっと優れた企業はいくらでもある。が、同社はヒアリ
ング能力に長けている。それも現場の不を聞き出すことに特化したヒアリ
ング能力だ。
まさに「不」のあるところにチャンスありなのだ。
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