「花畑牧場」ブランドの価値とは何か?

2009.11.26

営業・マーケティング

「花畑牧場」ブランドの価値とは何か?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 2007年の「生キャラメル」発売以来快進撃を続けてきた、タレントの田中義剛氏が経営する北海道の「花畑牧場」が、8月末の工場閉鎖に続いて店舗網の縮小を始めたようだ。

 一方、頑なに北海道限定にこだわる同ブランドには例えば、石屋製菓の「白い恋人」がある。その「白い恋人」及び「石屋製菓」には2007年にブランド存亡の危機から復活した経緯がある。消費期限を1ヶ月先延ばしに改ざんした問題で販売停止となったのである。同社は経営者の交代や再発防止策の励行によって100日後に販売を再開したが、その際、再開を待っていたファンが殺到し各店舗で即日完売。以後、しばらくは品薄が続いたという。(出典・Wikipedia)

 ブランド論の大家、デビット・A・アーカーによれば、「ブランド認知の資産価値」はまず、「Evoked set(想起集団)」に入ることであるという。そのブランドを「知らない」(未知)→「知っている」(認知)という段階を経て、「意識している」(想起)という段階に至る。そして、「○○ならこれと決めている」という「トップ・オブ・マインド」の獲得が最終ゴールである。Evoked setとは顧客のマインドシェアを獲得できている「想起」状態のブランドと「トップ・オブ・マインド」のブランドを併せてせいぜい3つであるとされている。

 では、「白い恋人」はどのようなカテゴリーのEvoked setに入っているのだろうか。もしくは、トップ・オブ・マインドになっているなら、「○○ならこれと決めている」の○○とは何なのだろうか。それは紛れもなく、「北海道土産」というカテゴリーである。マルセイバターサンドやチョコレートが人気の「六花亭」も同様に、北海道土産というEvoked setに入っているのは間違いない。特に石屋製菓と白い恋人は「北海道土産としては欠かせない」という顧客の支持があってこそ、100日という異例の早さで完全復活を遂げることができたのである。

 では、白い恋人や六花亭のチョコ、バターサンドが、それに「勝るほど美味しいお菓子はない!」というほど絶品であるかといえば、筆者は決してそうは思わない。個人の感覚によるだろうが、もっと美味しい菓子はいくらでもある。しかし、商用や旅行で北海道を訪れると必ず買ってしまう。それはなぜか。
 アーカーによれば、ブランドには「顧客が認めている、その製品ならではの価値」があるという。「知覚品質」という。客観的に測定可能な価値を「工場品質」という。「知覚品質」とは、それに対して顧客の頭の中にある主観的な評価だ。
 菓子の味に測定可能な絶対値を求めるのは難しいが、それでも比較対象して多くの人が美味しいという菓子は他にもある。それでも「白い恋人」や「六花亭」を評価するのは、「北海道ならでは」という「知覚品質」を買っているのである。
 「花畑牧場」が東京進出して全国区のメジャーブランドという知名度を手にして、その代償として失ったものは、一つは北海道土産としての「知覚品質」ではなかっただろうか。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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