その名を「VIA(ヴィア)」という。スタバがアメリカで新発売したインスタントコーヒーである。あえてカニバリゼーションにつながりかねない商品展開に踏み切った背景は何だろう?
時間がかからず、お金もかからず、しかも味は本当のスタバ並み。となれば、わざわざスタバ本来の高いコーヒーを買う理由がなくなってしまう。もちろんスタバの売りといえばコーヒーの味に加えて「サードプレイス」もある。だからヴィアが登場したからといって、店まで出かけていってコーヒーを(あるいはコーヒーと過ごす時間を)楽しむ価値は減価しないと思う。
が、少なくともスタバで売っている豆を買って帰って、家で入れて飲んでいた人の中には、安いヴィアに乗り換える人が出るだろう。もしこうした事態が起こるなら、明らかなカニバリゼーションである。
そんなことは想定済み?
しかし「シュルツCEOは『品質は高く、店舗で出すコーヒーとも食い合わない』と意に介さない(前掲紙)」らしい。本当にそうなのか。シュルツ氏が実際にこう述べたというのなら、このコメントはあまり論理的だとはいえない。ヴィアの品質が高ければ高いほど、店舗で出すコーヒーと食い合う可能性は考えられて然るべきだろう。
それでも店舗と食い合わないと主張するのなら、コーヒープラスアルファの魅力が店舗にはあるからだ、というのが本音ではないのだろうか。つまりサードプレイスである。当然このポイントは考えていたはずで、だからスタバは原点回帰をしていたという話があり、その結果として7〜9月期には回復基調という記事があった(日経MJ新聞2009年11月8日付1面)。
なるほど、きちんと手は打っていたというわけだ。
プライシングにうかがえる苦労の跡と隠された狙い?
スタバほどの企業が行き当たりばったりにいろいろな施策を打つわけはなく、そこはきちんと考えられているはずだ。しかしヴィアのプライシングには苦労の跡がうかがえる。そもそも一杯分が1ドル弱というのは、インスタントにしてはあり得ないほど高い。
簡易ドリップ式のコーヒーでさえ、日本ではだいたい一杯あたり50円が相場なのだ。スティックタイプのネスカフェなら一杯35円である。スタバのインスタントコーヒーがべらぼうに高いことがわかるだろう。
だからヴィアの価格はおそらく、相当に考え(悩み)抜かれた末のプライシングだとは思う。もちろんネスカフェほどの大量生産はできないだろうから、そもそもの原価に違いがあることは想像がつく。が原価レベルで3杯もの差はないだろう。
このプライシングの背景として考えられるのは、味には真剣に自信があるということ。だからネスカフェには3倍ぐらいの価格差なら絶対に勝てると踏んでいる。そして、それほどの自信作であるがゆえに、店で売る/出すコーヒーとのカニバリゼーションも実のところは覚悟している。
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