永谷園「生姜部」が高めるブランド価値

2009.11.12

営業・マーケティング

永谷園「生姜部」が高めるブランド価値

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 永谷園の「生姜部」をご存じだろうか。同社がコツコツと地道に続けてきた活動が、昨今開花し始めている。

■部門横断・消費者も巻き込んだ生姜部とその覚悟

 「生姜部」とは、永谷園が生姜という素材を究めるために、社内の部門や職位を超えて多種多様の人材を投入し、専用の試験農場を整備し、さらには消費者を「社外部員」として巻き込んで活動している組織である。
 主な活動は生姜を使ったレシピや製品開発であるが、「売上げや利益追求のためではない」と同社は言い切る。それは、<我々は自分達の手で生姜を育てることから始めて、生姜についての知識と理解を深めていく事を決意いたしました。私たち永谷園は『生姜』に本気で取り組み、新しい価値を提供していく事をここに宣言いたします。>(生姜部ホームページ)という、株式会社永谷園代表取締役専務 兼 生姜部顧問・永谷泰次郎氏の言葉に表れている。

■生姜部の存在意義は「ブランド価値向上」である

 同社は単なる調味料としてだけではなく、日本古来からの「冷えた体を温める」という生活の知恵から得た効用を消費者に提供することを目指している。確かに昔から伝わる効用を知る者はいても、それを丹念に製品化して消費者市場に根づかせるのは、企業としての売上・利益の側面から考えれば決して効率的とはいえないだろう。最近、女性向けの「冷え知らずさんの生姜シリーズ」といった製品が形になり売れ始めているが、今までにかかった永谷園の生姜部に関わる人員や経費などは効率面からだけではペイするかどうか疑問である。
 しかし、生姜部は同社にとって、何にも代え難い価値をもたらす。「永谷園」という企業ブランドを高めてくれるのだ。以下、活動の効果を細かく見てみよう。

■製品(Product)価値の向上

 永谷園の製品で思い浮かぶものは何だろうか。
 お茶漬け、ふりかけ、即席みそ汁、ちらし寿司やチャーハンやそうざいの素・・・などなどだろう。それらは消費者にとって、もしくは家庭でどのような存在だろうか。「ササッと食べられて便利」。「ササッと料理が作れて便利」。つまり、手間や時間短縮(Time saving)という効用を提供してくれる。
 一方、生姜部が開発した、スープや飲料、菓子などを展開する「冷え知らずさんの生姜シリーズ」はどうだろうか。「冷えを解消する」「血行をよくする」という、女性特有の悩みを解決する製品である。その効用は単に「便利」を超え、「これがあって良かった!」という気持ち(Peace of mind)を提供する製品であるといえる。
 つまり、生姜部の製品は従来の永谷園製品より、一歩消費者の心に入り込んで、「なくてはならない存在」というポジションを獲得することができるのだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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