JR東日本管内で「acure」ブランドの自販機事業を展開するJR東日本ウォータービジネス。「自販機イノベーション宣言」を掲げる同社がまた、新たな商機を見いだしたようだ。
消費者の購買行動を考えてみよう。
街中の自販機は、男性が仕事の合間などに喉の渇きを癒そうと飲料を購入し、その場で蓋を開けてゴクゴク飲むイメージだ。では、女性はというと、飲料購入のメインはコンビニだろう。その女性層取り込みの弱さもたたって、自販機の飲料販売シェアはかつての50%から現在は35%まで低下している。
しかし、昨今、一つの外部環境が変化している。景気の低迷だ。コンビニでの飲料購入は、多くは弁当、菓子などの「ついで買い」である。景気の低迷により消費者は支出を絞る。通勤途上で習慣的にコンビニに立ち寄ってしまう層も少なくないが、その行動が抑制されるとしたら、飲料はどこで買われるのか。また、朝、カフェでコーヒーなどをテイクアウトで購入する習慣を持っている層も多いが、その価格抑制を図ろうとした場合、代替品として何が買われるか。
同社は消費者の購買機会のうち「朝」を徹底的に取り込む戦略を明確にしている。従来のコラボ製品は「朝の茶事」「朝のオレ」だけでなく、カゴメとの「朝にすっきり野菜と果実」、日本コカ・コーラとの「ジョージアキックオフ 」などほとんどが「朝」テーマである。
今回の「FAUCHONアップルティー」は「寒さが厳しい季節のホームの朝」での購入を明らかに狙っている。職場に向かう前の駅で、「acure」の自販機の中からオレンジ色のホットキャップに暖かなディープピンク(deeppink:たぶんR:255 G:20 B:147)のラベルが購入を誘う。手に取ればボトルはペットボトルではなくボトル缶で、暖かさが直接手に伝わってくる。手袋をはめた両手で包み込むか、コートのポケットで暖かさを楽しむかしながら、職場に向かうという風情である。街中で缶の蓋を開いてゴクゴク飲む男性の購買行動との違いをよく考えた設計である。また、職場の席で飲む時に蓋を開けばフルーティーなりんごの香りがふっと広がるように、ホット専用に調整したという。リピーターとなるファンも増えそうだ。
自販機は完全なる飽和時代。ただ、置いておけば売れるということはもうない。
「顧客起点」を掲げるJR東日本ウォータービジネス社の外部環境の変化をとらえ、内部データを活用し、誰に、どのように買ってもらうのかという購買行動の細部まで設計した展開には、自販機や飲料だけでなく学ぶべきところが大きいといえるだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。