全国で市民病院問題が噴出している。すでに廃止を決めた自治体、大幅な規模縮小を図る自治体がある。そんな中、民間移譲での再生を企画、自ら再選挙に打って出ることで信を問い、強力に改革を進めているのが樋渡武雄市長だ。その革新的な改革プロセスを紹介する。
■税収を上げる、それが市長の仕事
「あるとき病院でびっくりするような光景を見かけました。池友会の蒲池真澄理事長がお医者さんを怒鳴りつけているんです。何事かと思いましたよ」
その医師は患者さんに対して「がまんしてください」と言ったそうだ。病院に行けば、ごく普通に言われるセリフではないか。しかしこれが池友会では絶対の禁句なのだ。
「その医者の襟首を掴んで理事長が説いていたのは『患者さまに我慢しろとは何事か。患者さまの痛みを取り除くのがお前の仕事だろう、それなのに何を考えているんだ』って、そりゃもうえらい剣幕でした。その姿を見てこの人に任せてよかったと心の底から思いました」
実は池友会は、医師会から批判されることもある医療法人だ。その理由は、上の例にも示されているようなラジカルともいえる患者第一主義にある。池友会のような姿勢で患者に接していては、普通の医者では身が持たないのだ。その池友会に任せる新しい市民病院の姿は、どうなるのだろうか。
「来年2月に完全移譲し、その後は新病院が建ちます。そこでまず雇用が生まれる。経済効果にして5000人分ぐらいのインパクトがあるはずです。そして市には税金(固定資産税など)が入ってくる。これが毎年9000万円分ぐらいになるでしょう。さらに海外からお客さんもどんどん来る」
海外からの客とはいわゆる『医療観光』だ。中国や台湾で今急速に増えている富裕層を招き、日本の先端医療機関で人間ドックを受けてもらう。もちろんついでに観光も楽しんでもらう。その意味では九州には地の利がある。
「すでに海外の大使館から連絡をもらっています。これは完全に想定内なんですよ。僕は役人OBだから相手も安心感があるはずです。そうやって最終的にはどれだけ税収を上げることができるか。税収こそが市長としての成績簿になると思っています」
民間企業の経営者なら利益、市長なら税収が評価基準であって然るべき。一見極めてユニークな考え方に思えるが、言われてみれば至極理にかなった考え方ではないか。国から予算をぶんどってきて分配することを考えるのが従来型の行政の長なら、樋渡氏の発想はその真逆である。税収を上げるために市は何ができるのか。そこから発想をスタートし、そのための投資として税金を使う。だからこそ投資対効果にもチェック機能が働く。武雄市民病院の事例は、市民病院問題に関わるすべての自治体は言うまでもなく、医師会はじめ固定概念にとらわれがちなすべての関係者にとって極めて示唆に富んだケースとなるはずだ。
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FMO第28弾【佐賀県武雄市長、武雄市立武雄市民病院】
2009.10.29
2009.10.22
2009.10.15
2009.10.06