箍(たが)のはずれた資本主義を修正するために、個別の強欲企業・守銭奴経営者をやり玉に上げることは根本の解決にはならない。それは、私たち一人一人に焦点を当てねばならない。
著者は、序章でこうした結論を述べた後、
残りの300ページ超にわたり事実を一つ一つ積み上げながら、
資本主義が暴走を始める根本のメカニズムを書き解いていきます。
もちろん、その列挙する事実が偏向的だとか、決め付けだとかの声は出てくるでしょうが、
力強い主張の本というのは、一本の背骨の入った図太い解釈から成り立つものです。
文章表現や解釈というのはいやおうなしにその人の人格やら思考の性質を顕してしまうもので、
ここにはロバート・ライシュという人物の高いレベルの良識さ・明晰さと、
そしてこのことを社会に問わずにはいられないという使命にも似た強い意志を感じることができます。
実際のところ、ライシュ氏は、ハーバード大学の教授であり、
クリントン政権下では労働長官を務めた人物です。さらには、
ウォールストリートジャーナル誌で「最も影響力のある経営思想家20人」の1人に選ばれるほどですから、
よい本を著して、こういった論点を世に問うというのは、
当たり前といえば、当たり前なのですが、
日本において、こうした立場にある人が、どれだけ同じように賢者の論議を押し出しているのか
と考えてみると、非常に残念に思います。
いずれにしても、本書は、ビジネスに関わるすべての人に課したい良書です。
そして、これは米国だけの問題ではなく、
日本を含め、経済体制を問わず全世界の国々が共有すべき問題を扱っています。
私は個人的に、今回の金融危機による世界同時不況が、
あいまいなまま、あいまいな感じで景気持ち直しにつながらないでほしいと感じています。
このまま中途半端に進んでいけば、早晩、歪んだ形の資本主義は、
もっと大きなダメージを世界規模でもたらすと危惧しているからです。
私たちが全世界的に持続可能な社会をつくるために、
国の境界を越えて経済体制や仕組みづくりを変えていく、
そして、自ら所属する組織の在り方を変えていくのは当然ですが、
その根本は、やはり一個一個の人間が、どう変わっていくかということに行き着きます。
百年単位の時間軸の視座に立てば、
個々の人間の叡智、勇気、行動が問われる大事なタイミングなのだと思います。
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【マクロの視点を持つ:資本主義】
2009.06.05
2009.06.01
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。