かつて評判になった猛烈なハードワークから、知恵の限りを使うブレインワークへ。見事に変身し、ダントツの高収益を上げるキーエンス。その強さの秘密について、元キーエンスマン(現ベンチャー企業の社長さん)の話を少しご紹介しましょう。
同社のメイン製品はFAセンサ、自動制御機器、計測機器など。これらが使わ
れるのは製造ラインです。だからキーエンスの営業マンはクライアントの本
社や営業所ではなく、製造現場に行く。ずんずん入っていく。行ってライン
を実際に動かしている人たちの話をじっくり聴く。その中にはネタ、つまり
提案要素がいくらでも転がっている。
秘密その二。それは予算内提案です。
少なくとも私が取材した相手に限っていえば、可能な限り現場が持っている
予算内に収まる製品を提案すると言っていました。これが何を意味するか。
これこそが見積りをストレートに通すための秘訣だというのです。ややこし
い手続きや根回しが必要となる上層部の決済が不要、かつ値切るのが仕事の
調達部を通さなくて済む金額に押さえるわけです。図式化すると次のように
なります。
現場の不都合・不具合・不便を徹底的に聴きだす
↓
それら『不』を改善する製品を提案する
=まさに相手がピンポイントで求めている製品です
↓
相手の予算内で決済できる金額を提示する
=相手はわざわざ稟議を通したり、購買部を通したりせずに購入できる
=キーエンスとしてはほぼ見積り通りの金額で販売できる
こんなふうに単純に図式化すると、ということはキーエンスは、現場の人た
ちの粗い金銭感覚につけ込んでぼったくってるだけじゃないか、と誤解され
るかもしれません。ところが決してそんなことはない。現場はキーエンス製
品を導入することで、自分たちが抱えていた不具合を確実に解消できるので
す。
つまりキーエンスは現場の製造ラインに確実に価値を提供し、その対価を得
ているに過ぎない。もう少し正確に表現すると、キーエンスは自分たちの製
品を、その価値を的確に評価してくれる相手に提供している、と言った方が良いの
かもしれません。
相手の価値とは効率アップであったり、あるいは歩留まりの向上であったり
します。だからキーエンス営業マンのインタビューは、業務プロセス改革の
ための核心をピンポイントで探り当てるレベルまで突っ込んで行なわれると
いうことでしょう。
その昔、コピーライターをしていた頃に、キーエンスのDMハガキの仕事を
受けたことがあります。これが同じ製品について手を替え品を替え、実にさ
まざまな切り口から相手の現状の不具合を引っ張り出す内容となっていまし
た。当時は、同じ製品のDM(しかもたかがDMハガキ!)なのに、なぜそ
こまでいろんなアイデアを求められるのかがよくわかりませんでした。
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