ピーター・ドラッガーは「マーケティングとは、販売の必要性をなくすことだ」と説いた。その心は「売り込む(セリング)」のではなく、「顧客のことを理解し顧客の要望に合わせれば、おのずと買ってもらえるようになる」ということだ。その意味では全てのマーケティングは顧客志向であるべきである。さらに今日の企業活動では、ひとりひとりの顧客の要望に応えるだけでなく、社会全体の要望に応えることも求められている。
<森永製菓は賞味期限が近づいた自社在庫の菓子を、スーパーなどで割安に販売する。詰め合わせで、価格は通常の売価から3割強引いた1050円に設定>だという。
今までは<廃棄処分にするほか、ディスカウントストアに安く卸したり、社内販売していた>というが、「もったいない」と思う一方、企業活動としては「仕方がない」ともいえる。ディスカウントストアでの販売は、購入客層が異なっていたり、菓子の購入シーンがスーパーでは食材のついで買いであり、ディスカウントでは菓子をまとめ買いするというように異なっていたりしたはずだ。しかし、スーパーにおいて3割引で販売すれば自社の新しい商品とカニバリ(喰い合い)を起こす恐れが多分にある。
この取り組みでは<10品目前後、約1600円分の商品>が袋詰めされて1050円で提供される。詰め合わせである程度まとめ買いすれば、新商品の購入頻度も低下してしまう恐れもある。
「モッタイナイ」のキモチで廃棄ゼロを目指す。社会的には意義のあることだが、企業の業績には悪影響を与えるかもしれない危険な賭けであり、もしかするとこれは、蛮勇なのではないか。大丈夫なのか、森永製菓。
・・・と、心配するには及ばないだろう。顧客も喜ぶ。社会的にも意義がある。でも、儲からないでは、もう一つの強力なステークホルダーが黙っていない。株主だ。同社には45,625名 の株主がいる、その納得を獲得することは企業としては欠かせない。
「廃棄ゼロ」というすばらしい取り組み。それが顧客に認識されれば、森永製菓への好感度が高くなる。菓子を購入する時に、同社の製品を指名買いすることも多くなるだろう。競合戦略としてしっかり機能するはずだ。
また、10品目の詰め合わせといっても、全ての商品ラインがカバーされているわけではないだろう。「格安のセットを買って、もう一つ欲しい商品は通常の価格で買って」という構内行動を引き出せれば、マージンミックスができて収益も確保できる。
もちろん、「廃棄費用削減」というバリューチェーン上のメリットも見逃せない。
顧客のことをしっかり見て、その要望に応える。社会的な要請に耳を傾け、その実現にチャレンジする。しかし、キッチリと収益を確保する裏付けも用意しておく。その整合性が重要なのだ。あっぱれ、森永製菓。消費者として、社会の一員として拍手を送りたい。そして、顧客として筆者は発売日の4月7日から1日に20kcalづつチマチマとチョコを食べ、店頭に並ぶ5月からはお得な詰め合わせを子供のおやつとしてスーパーに買いに行くに違いないのであった。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。