電子書籍端末「キンドル2」からチラつくアマゾンの凄味

2009.02.13

営業・マーケティング

電子書籍端末「キンドル2」からチラつくアマゾンの凄味

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

アマゾン・ドット・コムが9日、同社が07年に発売した電子書籍端末の後継機を発表した。「Kindle(キンドル)2」。音声による朗読機能など、いくつかの新機能が搭載されたが米国のアナリストの評価は今ひとつの感だ。しかし、端末の評価よりも、アマゾンが電子書籍ビジネスに対して、一つギヤを上げて急加速させようとしている点に注目したい。そこには同社でしかできない戦略が隠れているのだと。

日本においては残念ながら電子書籍は全く発達していない。ソニーが発売したLIBRIe(リブリエ)は07年5月に生産中止。旧松下電器産業から発売されていたΣBook(シグマブック)は05年10月に生産中止。後継機であったWords Gear(ワーズギア)も昨年3月に生産を中止し、国内の電子書籍端末は全て姿を消した。
原因はコンテンツ不足だとされている。複雑に絡み合う権利関係の調整ができず、端末はあれども魅力的なコンテンツがないという状況が普及を阻んでしまったのである。

一方、そうした制約条件がクリアされている米国は全く状況が異なるようだ。
日本経済新聞09年2月10日夕刊で「米、電子書籍が急成長 主導権争い本格化」という記事が掲載された。記事によれば、07年に発売された初代キンドルの販売実績は、08年に50万台だったとシティーグループが推定しているという。06年に国内では不振であったリブリエの姉妹機であるSony Reader(ソニーリーダー)発売を開始しているソニーは現状後塵を拝する形になっている。06年から08年11月までの累計出荷台数は30万台だという。<米国家電協会は電子書籍端末の市場規模が09年にはほぼ倍増すると予測。成長率は低価格パソコンを上回るとみている>という。ベンチャー企業も10年に市場に参入すると表明しており、この市場を誰がリードしていくのかはまだ分からない状況ではあると記事の論調である。

とはいえ、筆者としては圧倒的に「アマゾン有利」と考えている。「コンテンツを持っているから有利なのは当たり前」と言ってしまえばそれまでなのだが、その有利さが盤石に思える点が同社の凄さなのだと考えている。
コンテンツのチカラという点では、人気作家のスティーブン・キングにキンドル限定小説の配信を発表するなどの力業を用いている。しかし、その販促も配信を受けるユーザーあってのこと。同社が持っている力の源泉の一つは「顧客基盤」だ。
イゴール・アンゾフの成長戦略のマトリックスで考えてみる。このフレームワークは、横軸に製品、縦軸に市場をとり4象限を作って各象限毎に戦略の方向性を示す。既存の顧客に既存の製品をさらに販売する「市場浸透」。同じ市場に対し新製品を投入する「新製品開発」。製品は変えずに新たな顧客を取り込む「新市場開拓」。新製品を新市場に展開する「多角化」の4パターンである。
アマゾンが顧客にキンドルを販売するのはどのパターンにあたるのか。電子書籍端末という新商品を既存の顧客に販売することから、「新製品開発」によって成長を達成しようという戦略だと考えられる。
では、ソニーの場合どうか。同社の製品を購入している顧客ベースも持っている。その顧客に、新しいタイプの電子書籍用の端末を販売するのであれば、同じく「新製品開発」であったと考えられる。

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金森 努

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