誰も教えてくれなかった診断学(後編)

2008.11.12

ライフ・ソーシャル

誰も教えてくれなかった診断学(後編)

松尾 順
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

患者の問題解決(=病気・症状の治療)は、 患者の話を聞くことから始まります。 従来の臨床教育では、 患者の話した言葉をそのまま受動的に聞き、 カルテに記入したりプレゼンテーションすることが、 最もよい方法であると教える教師が少なくないそうです。

“短時間でさくっと運動できるといいのに!”
“男性の目が気になる”

といった消費者の声から、
気楽に立ち寄れる女性向けの運動施設に対する

「潜在ニーズ」

を読み取り、従来のフィットネスクラブと異なり、
プールやシャワーなどのない、着替えもいらない、
ご近所感覚の女性専用小規模フィットネスクラブを
構想するといったことです。

同書によれば、
医師が診断を行うに当たりまず行うのが、

「カードを引く」

という作業です。

「カード」とは、
患者の言葉から「診断仮説」として想定する

「症状と、その症状に対応した病名候補」

のことです。

患者の言葉から、適切なカードにたどり着けば、
その患者の診断は半分済んだようなものだそうです。

すでにある程度病名候補が絞り込まれているので、
必要最低限の検査で病名(問題)を特定できるからです。

面白いことに、
まだ知識・経験の浅い医者は、
引くカード(挙げる病名候補)は少ないのです。

要するに、知識・経験不足のため、
そもそも症状から想定される病名が思いつけない。

ところが、ある程度経験を積んでくると、
診断能力を競うかのように診断仮説をたくさん
並べるようになる。

でも、ベテランの域に達すると、
ツボを押えた比較的少数の実用的な診断仮説のカードを
引けるようになるのだそうです。

このあたりも、
マーケターが顧客の言葉から、
心理を的確に洞察して知見(インサイト)を引き出せる
ようになる段階と非常に似ているように感じます。

医師にしろ、マーケターにしろ、
少数の適切な仮説を立案する能力が不可欠であり、
そのためには十分な知識と知識を使いこなせるようになる
経験が前提として必要なのですね。

つまり、知識が少なすぎても仮説は立てられないし、
知識をやたらひけらかすように仮説を並べてもダメと
いうことです。

同書では、上記のカードを活用しながら、
どのように診断を行うべきなのか、情報の分析方法や思考方法
について詳細な説明が行われていますが専門的になりすぎるので
割愛します。

いつか、同書を参考に

「マーケターのための問題特定法」

といったテーマで記事を書きたいと思っています。

最後に、やみくもに情報を集めることを重視しがちな
マーケターに重要な示唆を与えるフレーズをご紹介して
終わります。

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「検査を多く重ねるほど、より正しい診断に近づく」

というのは幻想であり、

「検査をたくさん行ったほうがより確実な診断ができる」

とは限らない。

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「検査」を「調査」に、
「診断」を「知見洞察」に置き換えて
考えてみるといいですね!

『誰も教えてくれなかった診断学
 患者の言葉から診断仮説をどう作るか』
(野口善令、福原俊一著、医学書院)
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松尾 順

有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。

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