年末商戦に向けてKDDIが7機種と絞り込んだのに対し、ソフトバンクはその倍近い13機種で圧倒。しかし、ドコモは怒濤の22機種ラインナップだ。旧来の90X・70Xという型番を廃して端末メーカー色を強めたともいい、今までにない意気込みを感じる。
今回のコンセプトは「機能訴求型から、ユーザーのライフスタイルに合わせたシリーズ展開」ということらしい。そのため、90X・70Xという型番から4つのシリーズに切り替えたということだ。その4つとは「STYLE(スタイル)」「PRIME(プライム)」「SMART(スマート)」「PRO(プロ)」だ。
しかし、ここで既に筆者としてはちょっとついて行けなくなってしまったのだ。どうやら、ファッション性の高いSTYLE、ハイエンドなPRIME、薄型のSMART、スマートフォンがPROということらしいのだが、その区分け通りなのかスペック表を目を皿のようにして見ることになる。
確かに90X・70Xも70Xが高機能化して境界が曖昧になりつつあったが、そうは言ってもおおよその区分けはついた。高機能嗜好の筆者としては、今までなら70Xはばっさり選択肢から外せたのだが今回はそうもいかない。そうなると、本気で22機種を比較検討することになってしまうのだ。しかも高機能路線はPRIMEらしいが、既にどの機種も過剰なくらい機能満載で、スペック表からは選べない。
大和証券グループの「ベビーカーを選べない夫婦」のCMを見た方はいるだろうか。
ベビーカーを買いに来た夫婦が、4種類展示されたベビーカーからはいとも簡単に1つを選ぶが、展示する種類を十数種に増やすと、次にやってきた夫婦は選ぶことができずに立ち去ってしまうという内容だ。
プリストン大学の行動経済学者 E・シャフィール博士が解説する。「普通は『選択肢が多い方がよりよいものが選べる』と思うでしょ? 選択肢が増えすぎると、人はむしろ選べなくなるんだよ」と。「”決定回避”の法則」である。
シャフィール博士の理論は同じプリストン大学の教授で、認知心理学の先駆けであるジョージ・ミラー教授の考えが元になっているのだろう。ミラー教授は「マジカルナンバー7+-2」という論文を記した。簡単に言えば、人間の短期記憶の受容は7つ前後しかないということだ。但し、7は記憶対象の正確な絶対数ではなく「意味を持ったかたまり(チャンク)」を指す。
ドコモの新機種にあてはめれば、22機種も並べられてしまうと、「決定回避」が起こる恐れがある。しかし、そもそもの4つのシリーズで括られているので、それが「チャンク」として機能していれば、どのシリーズから選ぼう!と記憶に残ることになる。ところが、どうもそのシリーズの区分けも曖昧に感じてしまうのだ。
筆者自身ここ2年ほど端末を買い換えていないので、今回こそはと11月5日を心待ちにしていたのだが、昨夜早速カタログを手に入れたもののラインナップに圧倒され、早くも決定回避に走っている状況だ。
販売奨励金の廃止によって、端末価格は以前に比べ高くなった。ユーザーは以前のように10ヶ月毎に買い換えたりせずに慎重になっている。売れ行きの結果に注目してみたい。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。