トイレでうれしいコトは何? 松下・アラウーノのイノベーション

2008.09.25

営業・マーケティング

トイレでうれしいコトは何? 松下・アラウーノのイノベーション

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

スコットランド生まれの超イケメンなミュージシャン、ベン・イエレンの甘く切ないボーカルがテレビから流れてきた。画面には、ずらりと揃った便器が次々と汚れを洗い流していく映像が。松下電器のトイレ「アラウーノ」のCMであった。

昨今、トイレだけに限らず、多くの製品がコモデティー化し、製品の「付随機能」の階層でしか差別化が今難易なってきている。例えば、パソコンや携帯電話などの「カラーバリエーション戦略」はその端的な例としてあげられる。トイレメーカーの戦いにおいても例外ではない。タンクレストイレも、さらにカラーバリエーションなども豊富になってきている。さらに上級レベルでは、足下照明がついたり、座って用を足しながら音楽が聴ける機能まで装備されている。これらはいずれも「付随機能」だ。

「アラウーノ」は今一度、「実態」のレベルで戦いを挑むべき、技術のイノベーションを行ったことが大ヒットの原動力となっている。
トイレの便器は陶器でできている。これは、人間が座った時の体重を何度も支えるために必要な強度を確保し、さらに水に強いという必要要素から、それ以外にないと思われていた素材だ。しかし、陶器には水垢がつきやすいという弱点がある。さらに水垢は埃と陶器の珪素と結びつき、便器の表面をデコボコにしてしまう。さらにそこに汚れがつく。それを落とすために、日々弛まぬブラシがけ掃除が欠かせなくなるという、当たり前ではあるが、ふと考えればなんとも賽の河原的な日々の労働が強要されることになっているのだ。
誰だってトイレ掃除なんてしたくない。

「トイレがトイレをアラウーノ」。アラウーノのキャッチフレーズである。他社のキャッチフレーズである「おそうじラクラク」のレベルではない。勝手にトイレが掃除してくれるというのだ。
その秘密は、もはや有名になってきたが、便器の素材にある。有機ガラス系の新素材を用いたという。つまり、「樹脂」だ。陶器に比べて樹脂は傷つきやすい。ブラシでこすれない。トイレ業界の固定観念で考えれば、あり得ない素材だったのだ。しかし、あくまで生活者のニーズに踏み込んだことが大ヒットにつながった。
「ニーズ」とは、もはやカタカナ語になっているが、正しく定義するのであれば、「理想とする状態と現実のギャップ」である。トイレで考えれば、「トイレ掃除をしなくていいのが理想なのに、毎日毎日ブラシでごしごし掃除をしなくちゃならないの!」である。
「ブラシでこすれないなら、こすらずに済むようにすればいいんじゃないか?」発想の転換だ。汚れがつきにくい樹脂の特性を活かす。さらに、水流の泡を調節し、汚れ落ちを促進する。洗浄に家庭用の市販の中性洗剤を使えるようにする。固定化された発想では実現できない革新は、ひとえに生活者のニーズに立ち返ったことから誕生しているのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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