スコットランド生まれの超イケメンなミュージシャン、ベン・イエレンの甘く切ないボーカルがテレビから流れてきた。画面には、ずらりと揃った便器が次々と汚れを洗い流していく映像が。松下電器のトイレ「アラウーノ」のCMであった。
「アラウーノ」は「タンクレストイレ」という洗浄用の水タンクを持たないタイプの便器に分類される。タンクがない分だけ、あまり広いスペースが割かれることのないトイレの空間を有効利用でき、見た目もスッキリするということで、タンクレスはここ2~3年で約3倍の伸びを示しているという。
大きな伸びの背景には、各社の技術革新があったのも事実だ。タンクがないということは、溜めておいた水で一気に洗浄することができないということ。そのため、戸建て住宅の2階~3階や、マンションの高層階などの水圧の低い住居には適していなかった。そのため、メーカー各社は水の流れ方を工夫することによって弱点を克服したのである。さらにその副次効果として少ない水量で洗浄ができる=エコな便器というポジションを獲得することができたのだ。
見た目スッキリ、トイレ広々。しかも水が節約できてエコにも貢献できる。たかがトイレだが、されどトイレということで、タンクレストイレの人気の秘密はわかる気がする。しかし、松下電器の「アラウーノ」はさらにもう一段、生活者のニーズに踏み込んだ大胆な技術革新でライバル各社から飛び抜けた人気を獲得している。新築やリフォームの際に、顧客から「指名買い」されるというのだ。今まで誰が、家の中の、古い言葉でいえば「御不浄」たるトイレの、便器のことなど思い入れを持って選択しただろう。それが、指名買いのポジションを獲得しているのだ。
松下電器は当然、陶器メーカーのように便器の専門ではない。それ故に、生活者のニーズに立ち返ってモノ作りをしたのではないだろうか。
トイレの価値とは何だろうか。毎度筆者が援用する、P.コトラーの「製品特性分析3層モデル」で考えてみよう。
製品の中核たる価値、即ち、その製品を手に入れることで実現したいことは何かといえば、「用を足す」ことである。(食事中だったらごめんなさい)。
そして、その中核たる価値を実現するために求められる製品の「実態」は何かというと、「楽に用が足せる」ことと、「用を足した後の処理が速やかにできる」ということになるだろう。これは、便器が洋式化されて「座って用が足せる」ということと、水洗化による洗浄で旧来の和式の問題点が一気に解決された要素だ。
さらに、「用を足す」という中核には直接影響を与えるものではないものの、あると嬉しい「付随機能」が、タンクレスが実現するような省スペースや見た目、水の節約ということになるのだろう。
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2008.10.15
2009.05.12
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。