液晶分子に電圧をかけ液晶分子の向きを変え、外光の透過性を調節して画像を描く電子ペーパー。電力がなくても、次に電圧をかけるまで画像を半永久的にを維持することができるため、超低消費電力・薄い・軽い・明るいを実現した。 その電子ペーパーがこの秋、情報端末として商品化される。
「複雑性」に関してはさほど問題ないだろうが、「相対優位性」「両立性」は少々厳しい。そして、普及のためには「試行可能性」と「観察可能性」の確保が必須であることがわかる。
「相対優位性」においては、携帯電話でコンテンツを「読む」という機能だけを切り取って比較してみれば、確かに画面も大きく読みやすい。しかし、この度の富士通製のものは携行性に少々疑問が残る。
Polymer Vision社製のように、電子ペーパーの特性を活かした製品で、初めて携帯電話に携行性という面で劣後しない土俵に登れるといえるだろう。
「両立性」はといえば、読みやすく、携行性が確保できれば、何かを「しっかり読む」という使い方と、メールや簡単なコンテンツを「さっと見る」という使い方で棲み分けし、「両立」ということもできるかもしれない。
しかし、電子ブックの普及は如何せん、遅きに失してはいないだろうか。もはや、「携帯電話で読む」ということは一般化しており、ケータイ小説に代表されるように文字数や改行を携帯向けの読みやすさを確保するという進化を遂げたコンテンツも一般化している。本来的には端末に左右されることなく、しっかりと本来のコンテンツの情報量を取得するべきかもしれないが、もはや「携帯で読む」がスタンダードとなっている以上、携帯電話だけで用に足りてしまい「両立」させる意味合いが乏しくなっているのが現状だ。
「試行可能性」はAmazonの”Kindle”は399ドルなのに対し、富士通製は10万円前後だという。ちょっと気軽に試す価格とは言い難い。それでも果敢にチャレンジするイノベーターは登場するかもしれない。そうした彼らが、電車の中で取り出してみた時、恐らく周囲の人はのぞき込むなどの行為をして、その存在を認識するだろう。自ら試行するのではなく、人のものを見ることで代替することになる。そして、本当に良さが認識できれば、導入の検討がなされるかもしれない。そのためにも、イノベーターやそれに続く人々の購入障壁にならないような価格設定が望まれる。
「観察可能性」は前項の「試行可能性」の、のぞき見も同義になるが、電子ペーパーという意味からは電子ブックの形態になる前に、もっと人々の目に触れている必要があるだろう。例えば電子ペーパーで作られたポスターや様々なサインが街のあちこちにある。それが非常に鮮明かつ精緻な画像や文字が実感でき、自らがそれを日常的に読むということに魅力を感じられることが前提ではないだろうか。その意味からすると、電子ペーパー自体の認識がまだ高まっていない段階で、携帯電話に対抗せざるを得ないポジションとして、電子ブックの形態の商品として市場に出て行くのはかなり厳しそうだ。
以上のように、普通に考えれば、かなり苦戦しそうな製品であるが、何とか展開していくには前述の「試行可能性」と「観察可能性」に注力することだろう。
筆者はデジタルもの、特に携帯端末に関してはかなりのマニアと自認している。そんな筆者が飛びつくような展開を用意して、発売の秋を迎えてほしいと思う。
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2008.08.29
2013.05.30
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。