日本人妻学なるものをはじめてみた。47都道府県の人妻を巡る旅を、短編小説風にまとめて行こうかと考えている。宮本常一や柳田邦夫のように、全国をフィールドワークしてみる。マーケティングプランナー歴30年目のルーティンワークである。 多少、大目に見て、お付き合いいただけると助かります。
琵琶湖の対岸は、
雨が降ると消える。
石田三成の居城であった佐和山城跡は、小山の中にある。麓では道がよく分からず迷う者が出る。ほど近い彦根城には観光客が溢れているというのに。滋賀に住む人間も何処にあるのかを正確には知らない。
降り出した雨がやまない。
国道8号線の脇の舗装もされていない道の先。
あるのは、くたびれたモーテルと、佐和山城の城跡である。
用事あるのは、城跡ではなく、モーテルである。
あじさいが濡れている。
ズブズブの轍にレンタカーのハンドルがとられる。
弓子は、雨に濡れた靴みたいに、助手席に張り付いている。
何年ぶりだろう!?会ったのは!?
別れて20年以上が経っている。
わたしの手の中ではじけるのが好き。
夢中になっているあなたが
わたしの上に堕ちてくるのが好き。
そんなことを言う弓子が好きだった。
古いモーテルは、2階建て。
車庫に軽自動車を止めて、その脇の狭い階段をあがる。
一段ごとに、ふたりの重みが軋む。
まだ、外は明るい。
話すことを思いつかない。
話したって冷めるようなことしか言えない。
外の濡れた音だけが頭の中に響く。
ぎこちなさすぎてにやけてしまう。
シャワーを浴びて薄くて情けない掛け布団の中に潜り込む。
弓子も、苦笑いしながら、ワタシに従う。
ちょっと冷たい布団の中で手を握る。
少しだけ強く抱きしめる。
冷たくなった手が
あのやわらかさを求めている。
少しだけ芯を熱くして欲しい。
少しでいいから硬くして欲しい。
全身をかけめぐる歓びよりも
心地よい刹那が欲しいだけ。
早く夜にならないかな・・・。
関ヶ原で戦った徳川家は、当然のように、石田三成を恨んだ。彦根城築城の際、三成の父が守っていた佐和城はことごとく破壊され、城跡の小高い山頂はその形跡もないほど平らに削られた。
あじさいの花びらは震えたまま・・・。
夜になる前に、軋む階段を降りた。
弓子は、いまも、この地で生きている。
旦那と中学生の息子さんと暮らしている。
佐和山城跡への道なんて、きっと、はじめて通ったはずだ。
弓子を降ろしたあと、浜街道を飛ばしてレンタカーを返しに行った。
われは湖の子さすらいの・・・
琵琶湖は、もう漆黒だ。
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2015.07.17
2009.10.31
有限会社ペーパーカンパニー 株式会社キナックスホールディングス 代表取締役
昭和30年代後半、近江商人発祥の地で産まれる。立命館大学経済学部を卒業後、大手プロダクションへ入社。1994年に、企画会社ペーパーカンパニーを設立する。その後、年間150本近い企画書を夜な夜な書く生活を続けるうちに覚醒。たくさんの広告代理店やたくさんの企業の皆様と酔狂な関係を築き、皆様のお陰を持ちまして、現在に至る。そんな「全身企画屋」である。