国連の発表によると、世界の人口は毎年約8300万人ずつ増え続けており、2050年には98億人に達すると予測されている。 このペースで人口が増え続けると、近い将来、食肉の生産が追いつかなくなり、重要なタンパク源の肉が食べられなくなる「タンパク質危機」が起きる可能性もあるという。 そうした中、いま国内外で急成長しているのが、食品に関わる課題を先端技術で解決する「フードテック」と呼ばれる産業分野だ。2015年ごろからフードテックへの投資やクラウドファンディングが活発化したのを受け、国内でも関連分野のベンチャーやスタートアップ企業が、肉類に替わる新たなタンパク源の研究・開発に乗り出している。 肉不足の救世主として注目されているのは、果たしてどんな「食べ物」なのか……。テクノロジーの力で将来のタンパク質危機に挑む、日本のフードテック企業の取り組みを2回シリーズで紹介する。
昆虫由来の食品開発・商品化に乗り出す国内の新興企業
栄養価が高く、環境に優しく、持続的な生産が見込める── こうした昆虫食の可能性に着目し、日本でもベンチャーやスタートアップなどの新興企業が、昆虫を原材料にしたさまざまな食品の開発・商品化に次々と乗り出している。その取り組みをいつくかご紹介しよう。
■ コオロギ由来のプロテインバー/バグモ(京都市)
2018年設立のスタートアップ「バグモ」は、1本に粉末状のコオロギ50匹分が含まれるプロテインバーを開発。クルミやレーズンなどを使って風味を引き立てており、1本で約10グラムのタンパク質に加え、必須アミノ酸や鉄分、カルシウムも摂取できるという。クラウドファンディングの参加者などに試供品を配ったところ好評だったため、2018年11月からネット販売をスタートさせた。
■ コオロギ由来のパン/大学シーズ研究所(徳島県鳴門市)
徳島大学発のベンチャー「大学シーズ研究所」も2018年12月に、コオロギ約30匹分のパウダーを練り込んだチョコレート風味のパンを発売。一般的なパンよりタンパク質を多く含み、食べても昆虫だとはまったくわからないという。100グラムの缶入りで約5年保存でき、災害備蓄用の食糧にも好適だ。徳島大の三戸太郎准教授は「抵抗感をなくして普及の第一歩になれば」と期待を寄せる。
■ 旧ソ連のイエバエを使った飼料/ムスカ(福岡市)
2016年設立のスタートアップ「ムスカ」は、ハエの一種イエバエを乾燥させた魚の飼料を開発。使用するハエは45年間1100世代にわたって品種改良されてきた優等種で、旧ソ連が宇宙開発のために研究していたイエバエを、ムスカの前身企業が冷戦後に買い取ったのがきっかけという。交配を重ねたイエバエの幼虫は密集した飼育環境に強いうえ、従来の飼料より魚の成長を促進させる効果が高いことも確認されている。
■ カイコのサナギを使ったシルクフード/エリー(東京都中野区)
京都大学発のベンチャー「エリー」では、カイコのサナギをフリーズドライ製法で粉末にした「シルクフード」の開発を進めている。味のクセが少なく、旨みのあるカイコのサナギは、飲み物やスープなどにも活用できるという。また、シルクフードにはタンパク質以外にも有用な栄養素が含まれていることから、同社ではサプリメントや機能性食品としてのブランド化も検討している。
新ジャンルのスーパーフードとして定着する可能性も
昆虫を活用した食品は、欧米などでもすでに販売が始まっているが、コオロギやミルワーム(甲虫類の幼虫)をそのまま使った商品が多く、見た目や独特の風味に抵抗感を示す人も多いという。日本に古くから伝わるイナゴ・蜂の子の佃煮といった郷土食も、素材のルックスがリアルすぎて、お世辞にも「食欲がそそられる、美味しそう」とは言い難い。
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