2018年、訪日外国人旅行者が3000万人の大台を突破し、国を挙げてインバウンドの需要拡大に沸き立つ日本。 世界的に見ても国外へ旅行する人の数は年々増加しており、2017年の世界の海外旅行者数は過去最高の約13億人(前年比7%増)、観光産業による総輸出額は1兆6000億ドル(約176兆円・前年比5%増)に達したという。格安航空会社の進出や途上国の経済発展を背景に、世界的な「旅ブーム」は今後もますます拡大すると予測されている。 その一方で、いま世界中の多くの観光地では「オーバーツーリズム」という深刻な問題に直面し、その対応・対策に頭を悩ませているようだ。日本で「観光公害」とも呼ばれる「オーバーツーリズム」とは、いったいどのような問題なのか……。国内外のさまざまな事例や取り組みを、2回に分けて詳しく見ていくことにしよう。
ゴンドラが行き交うベネチアの運河
海洋汚染が深刻化する人気リゾートの事例
オーバーツーリズムによる環境破壊が深刻化し、国が観光客の立ち入りを禁止したリゾート地域もある。
【ピーピーレイ島マヤ湾/タイ】
2000年に公開されたレオナルド・デカプリオ主演の映画『ザ・ビーチ』のロケ地となったことで、世界的に有名になったピーピーレイ島のマヤ湾。小さな湾に1日約200隻のボートで4000人もの観光客が訪れる人気リゾートとなり、ゴミやボート、日焼け止め剤などによる海洋汚染で、これまでにない環境破壊が発生する事態となった。近年の調査では、同地域のサンゴ礁は80%以上が破壊され、かつて見られた海の生態系も大きく失われたと報告されている。
これを受けてタイ国立公園野生生物植物保全省は、2018年6月からマヤ湾を閉鎖して観光客の立ち入りを禁止。当初、閉鎖は4ヵ月間のみの予定だったが、閉鎖後も海域の植生破壊が進行しており、短期間での生態系回復は不可能として、同島のマヤ湾とロサマ湾への立ち入りは無期限禁止となった。
【ボラカイ島/フィリピン】
人口1万人ほどのボラカイ島は、年間約200万人が訪れる人気のビーチリゾートだが、近年は観光客が急増して汚水対策が後手にまわり、ドゥテルテ大統領が「汚水のたまり場」と形容する状況に。違法に建てられた施設から下水や廃油が海に垂れ流されるなどして、周辺地域の海洋汚染が年々進行していたのだ。
そこでフィリピン政府は、2018年4月から島を全面閉鎖して観光客の立ち入りを禁止。違法建築物の撤去や排水施設の整備などを進めた結果、環境保護に一定の成果があったとして、同年10月から宿泊施設を限定して島の閉鎖を部分的に解除した。
解除後は、一度に島へ滞在できる観光客数を従来の半分以下に制限し、海岸での火気使用やイス・テーブルの設置、喫煙・飲酒などを全面禁止。政府は今後も環境対策を続けながら、観光施設の営業解除を段階的に広げていく方針だ。プヤット観光相は「ボラカイ島を持続可能な観光地づくりのモデルケースにしたい」と語り、他のリゾート地にも環境対策を求める書簡を送ったという。
人気リゾート・ボラカイ島のビーチ
観光収入で成り立っている観光地のジレンマ
以上、世界の人気観光地に広がるオーバーツーリズムの危機的状況と、問題解決に向けた取り組みを見てきた。これら5つの観光地のように、増えすぎた観光客に対処するためには、ある程度の制限・禁止事項を設け、場合によっては観光地の閉鎖といった厳しい措置をとる必要があるのかもしれない。
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